お祭り、花火大会、スポーツイベント、商業施設のセール——人が一度に集まる場所を管理する立場になったとき、「警備員を頼まなければ」と考えるはずです。そこで出てくるのが雑踏警備(ざっとうけいび)という言葉です。

雑踏警備は、単に「人が多い場所に警備員を立たせること」ではありません。警備業法で定義された業務であり、しかも有資格者の配置が法令で義務づけられている、数少ない警備業務のひとつです。この点を知らずに見積もりを比べると、安いほうを選んだつもりが、法令上必要な体制を組んでいない業者だった——という事態も起こり得ます。

この記事では、全国の警備会社を地域と業務内容で探せる「近くの警備会社ナビ」編集部が、依頼する側(発注者)の目線で雑踏警備を整理しました。法令の記述はすべてe-Gov法令検索の現行条文と照合しています。

この記事でわかること

  • 雑踏警備の法律上の定義と、2号警備の中での位置づけ
  • 雑踏警備と交通誘導警備の違い【比較表つき】
  • 雑踏警備だけに課される検定合格警備員の配置義務とその根拠条文
  • 警備員にできること・できないこと(交通整理との違い)
  • 依頼前に確認すべきチェックリスト

雑踏警備とは|法律ではどう定義されているか

雑踏警備は、警備業法上「2号警備」と呼ばれる区分に含まれます。まず根拠となる条文を確認しましょう。

この法律において「警備業務」とは、次の各号のいずれかに該当する業務であつて、他人の需要に応じて行うものをいう。
(中略)
二 人若しくは車両の雑踏する場所又はこれらの通行に危険のある場所における負傷等の事故の発生を警戒し、防止する業務

出典:警備業法第2条第1項第2号(e-Gov法令検索)

ここで注目したいのは、第2号が「人の雑踏」と「車両の雑踏・通行の危険」の両方を含んでいることです。つまり2号警備という区分は、実務上さらに2つに分かれます。

その内訳を明確にしているのが、警備員等の検定等に関する規則(平成17年国家公安委員会規則第20号。以下「検定規則」)です。

三 法第二条第一項第二号に規定する警備業務のうち、人の雑踏する場所における負傷等の事故の発生を警戒し、防止する業務(雑踏の整理に係るものに限る。以下「雑踏警備業務」という。)
四 法第二条第一項第二号に規定する警備業務のうち、工事現場その他人又は車両の通行に危険のある場所における負傷等の事故の発生を警戒し、防止する業務(交通の誘導に係るものに限る。以下「交通誘導警備業務」という。)

出典:警備員等の検定等に関する規則第1条第3号・第4号(e-Gov法令検索)

整理すると、次のような関係になります。

区分 対象 代表的な現場
雑踏警備業務 人の雑踏する場所(雑踏の整理) 祭り・花火大会・コンサート・スポーツ大会・商業施設の催事
交通誘導警備業務 工事現場その他、人・車両の通行に危険のある場所(交通の誘導) 道路工事・建築現場・駐車場の出入口

どちらも同じ「2号警備」ですが、法令上は別の種別として扱われます。この区別が、後述する資格者の配置義務に直結します。

なお警備業務の4区分(1号〜4号)全体を知りたい方は、警備業務の種類まるわかり|1号〜4号を発注者向けに完全解説で整理しています。

雑踏警備と交通誘導警備の違い【比較表】

混同されやすい2つですが、発注者にとっては「何を守る業務か」が決定的に違います。

比較項目 雑踏警備 交通誘導警備
主な対象 人の流れ(群衆) 車両と歩行者の通行
目的 混雑による転倒・将棋倒し等の事故防止 通行の危険がある場所での事故防止
典型的な期間 数時間〜数日(イベント単位) 数日〜数か月(工事期間単位)
業務の性質 雑踏の整理・誘導・案内 交通の誘導
検定合格警備員の配置義務 業務を行うときは常に必要 高速道路等・公安委員会が認めた道路に限り必要
事前準備の重み 大きい(人数・動線・想定来場者数の計画) 中程度(工事計画に沿って配置)

実務では両方を同時に必要とする現場も珍しくありません。たとえば花火大会では、会場内の観客整理(雑踏警備)と、周辺道路の車両誘導や臨時駐車場の出入口対応(交通誘導警備)が同時に発生します。依頼するときは「どちらか」ではなく、現場のどの部分にどちらが必要かを整理して伝えると、見積もりの精度が上がります。

【重要】雑踏警備には検定合格警備員の配置が義務づけられている

ここが、雑踏警備を依頼するうえで最も見落とされやすく、かつ最も重要なポイントです。

警備業法は、専門的な知識・能力を要し、事故が起きた場合に不特定または多数の人の生命・身体・財産に危険が生じるおそれがある業務について、有資格者の配置を義務づけています。

警備業者は、警備業務(中略)のうち、その実施に専門的知識及び能力を要し、かつ、事故が発生した場合には不特定又は多数の者の生命、身体又は財産に危険を生ずるおそれがあるものとして国家公安委員会規則で定める種別(中略)のものを行うときは、国家公安委員会規則で定めるところにより、その種別ごとに第二十三条第四項の合格証明書の交付を受けている警備員に、当該種別に係る警備業務を実施させなければならない。

出典:警備業法第18条(e-Gov法令検索)

配置基準の中身

雑踏警備業務における具体的な人数は、検定規則第2条の表に定められています。要約すると次のとおりです。

現場の状況 必要な配置
場所が1つの区域として扱われる場合 その場所ごとに、1級または2級の検定合格警備員を1人以上
場所が2つ以上の区域に区分される場合 各区域ごとに1級または2級を1人以上
加えてその場所ごとに1級1人

根拠:警備員等の検定等に関する規則第2条(e-Gov法令検索)警視庁「検定合格警備員の配置基準」

つまり、規模が大きく複数エリアに分かれる会場では、2級だけでは足りず、統括する1級検定合格警備員が必要になるということです。

誤解しやすい点:義務づけられているのは「最低人数」です。条文が求めているのは場所ごと(複数区域なら区域ごと)に1人以上であって、現場に立つ警備員全員が検定合格者である必要はありません。20人体制のうち有資格者が1人でも、区域が1つであれば法令上の配置は満たされます。したがって「有資格者がいるかどうか」は体制が適法かどうかの問題であり、見積総額の高い・安いを直接説明するものではない点にご注意ください。

交通誘導警備との決定的な違い

ここが本記事で最もお伝えしたい点です。同じ検定規則第2条の表を見ると、交通誘導警備業務には適用範囲の限定が付いています。

種別 配置義務が生じる範囲
雑踏警備業務 場所の限定なし(1級・2級のいずれかを最低1人。1級の配置は複数区域に分かれる場合に限る)
交通誘導警備業務 高速自動車国道・自動車専用道路で行うものに限る
交通誘導警備業務 道路又は交通の状況により、公安委員会が道路における危険を防止するため必要と認めたものに限る

交通誘導警備は「高速道路等」または「公安委員会が指定した道路」という条件が付くのに対し、雑踏警備業務には、そうした場所の限定がありません。検定規則第1条第3号にいう雑踏警備業務(雑踏の整理に係るもの)を行うのであれば、資格者の配置が求められる建て付けになっています。

発注者にとって、これは次の確認項目を意味します(価格の妥当性ではなく、体制の適法性を確かめるための項目です)。

  • 依頼先に雑踏警備業務の検定合格警備員が在籍しているか(在籍していなければ、そもそも受注できない業務です)
  • 会場を複数エリアに分ける計画なら、1級検定合格警備員を配置できるか
  • 当日の誰が有資格者としてどの区域を担当するのかが、警備計画上で明確になっているか

見積書に記載された人数の内訳を見ても、有資格者が何人含まれるかは分からないことがあります。金額の比較だけでは判断できない部分なので、「どなたが検定合格警備員として、どの区域に立ちますか」と直接確認するのが確実です。

「区域」はどう決まるのか

「2つ以上の区域に区分される場合」という表現は曖昧に見えますが、判断要素は検定規則第2条の備考に示されています。

この表の四の項の1及び2の下欄の区域を特定するに当たっては、雑踏警備業務を行う場所の広さ、当該場所において予想される雑踏の状況、当該雑踏警備業務に従事する警備員の人数及び配置の状況、情報通信技術の利用の状況その他の事情を勘案するものとする。
※「四の項」は雑踏警備業務の行を指します。

出典:警備員等の検定等に関する規則第2条 備考二(e-Gov法令検索)

会場の広さ、想定される混雑の程度、配置する警備員の人数、無線等による連絡体制——これらを踏まえて区域が決まります。区域の設定は、主催者など警備業務の委託者と警備業者との間で結ぶ契約において定められるとされています(神奈川県警察「雑踏警備配置基準質疑応答集」)。つまり発注者も区域の決定に関わる立場であり、警備会社に任せきりにできる事項ではありません。会場図・想定来場者数・過去の実績データを早めに共有し、どう区切るかを一緒に詰めていくことになります。必要に応じて所轄警察署と協議する場合もあります。

警備員にできること・できないこと

雑踏警備を依頼する際、「警備員に車を止めてもらえる」「入場者を強制的に排除してもらえる」と期待する方がいますが、これは誤解です。

警備業者及び警備員は、警備業務を行うに当たつては、この法律により特別に権限を与えられているものでないことに留意するとともに、他人の権利及び自由を侵害し、又は個人若しくは団体の正当な活動に干渉してはならない。

出典:警備業法第15条(e-Gov法令検索)

警備員は特別な法的権限を持たない民間人です。一方、道路上の交通整理は法律で警察官等の権限とされています。

警察官又は第百十四条の四第一項に規定する交通巡視員(以下「警察官等」という。)は、手信号その他の信号(以下「手信号等」という。)により交通整理を行なうことができる。(後略)

出典:道路交通法第6条第1項(e-Gov法令検索)

したがって、警備員が行うのは強制力を伴う交通整理ではなく、通行者の協力を前提とした誘導・案内です。この違いを整理すると次のようになります。

できること できないこと
来場者の誘導・案内・声かけ 強制力のある交通整理(警察官等の権限)
混雑状況の把握と主催者への報告 逮捕権など特別な権限の行使
危険箇所での注意喚起・規制ロープ等の管理 正当な理由のない身体拘束・所持品検査の強制
事故発生時の初期対応と警察・消防への通報 道路の通行禁止・制限の決定

大規模なイベントで交通規制そのものが必要になる場合は、主催者が所轄警察署と事前に協議する必要があります。警備会社への発注だけでは完結しない点に注意してください。

雑踏警備が必要になる主なケース

次のような場面では、雑踏警備の検討が必要になります。

  • 祭り・縁日:露店が並び動線が狭くなる。参道や橋など滞留しやすい地点の管理が要る(詳しくは祭りの警備依頼ガイド|主催者の段取りと費用の目安
  • 花火大会:終了直後に帰宅の人流が一気に集中する。開始前より終了後の体制が重要
  • コンサート・ライブ:入退場時の待機列管理、物販列の整理
  • スポーツ大会・マラソン:沿道の観客整理とコース管理
  • 商業施設の催事・セール:開店時の入場待機列、限定品販売時の整列
  • 展示会・見本市:来場ピーク時の入口滞留対策

共通するのは「人が一点に集中する時間帯がある」ことです。総来場者数が同じでも、時間あたりの集中度が高いほど計画は慎重になります。

ただし、イベント警備のすべてが雑踏警備業務に当たるわけではありません。検定規則第1条第3号の定義は「雑踏の整理に係るものに限る」とされており、同じイベントでも、機材・物品の盗難を防ぐ業務は1号警備(施設警備業務)、出演者や来賓の身辺警護は4号警備に当たります。1つの現場に複数の区分が混在することは珍しくないため、どの業務がどの区分に当たるかを警備会社と確認しておくと、計画にも見積もりにも齟齬が生じにくくなります。

雑踏警備を依頼する前のチェックリスト

問い合わせ前に次の情報を整理しておくと、見積もりが早く、正確になります。

■ 伝えるべき情報

  • 開催日時(設営・撤収を含む拘束時間。深夜・早朝を含むかどうか)
  • 会場の場所と広さ(会場図があれば最良)
  • 想定来場者数(過去実績があれば前回の実数も)
  • 人が集中する時間帯(開場直後、終演後など)
  • 道路を使用するか(使用する場合、警察への申請状況)
  • 自主警備(主催者スタッフ)の人数と役割分担

■ 警備会社に確認すべきこと

  • 公安委員会の認定を受けているか(認定番号の確認方法は警備会社の認定番号とは|正規業者かを確認する方法で解説しています)
  • 雑踏警備業務の検定合格警備員が在籍しているか(複数区域に分かれる会場なら1級の在籍状況も)
  • 同種のイベントでの実施経験
  • 警備計画書を作成してもらえるか
  • 警察署との協議に同席・助言してもらえるか
  • 雨天延期・中止の場合の費用の扱い
  • 当日の連絡体制(無線・指揮系統)

具体的な料金の相場感については、イベント警備の料金|1日あたりの費用と見積もりの見方で詳しく扱っています。

よくある質問

Q. 雑踏警備と交通誘導警備は、同じ警備会社に頼めますか?

A. 両方に対応している会社であれば可能です。ただし警備会社によって得意分野が異なり、交通誘導が中心でイベント経験が少ない会社もあります。雑踏警備の実績と、雑踏警備業務の検定合格警備員の在籍状況を確認したうえで判断してください。

Q. 主催者側のスタッフだけで対応してはいけないのですか?

A. 主催者が自らの行事を自ら警備すること(いわゆる自主警備)は、他人の需要に応じて行う業務ではないため警備業法上の警備業務には当たりません。ただし、規模が大きくなるほど専門的な計画と訓練された人員が必要になります。所轄警察署から警備計画の提出や体制の強化を求められることもあるため、早い段階で相談することをおすすめします。

Q. 検定合格警備員がいない会社に頼むとどうなりますか?

A. 配置義務は警備業者側に課された義務です(警備業法第18条)。適切な配置がなされていない場合、その警備業者が行政処分等の対象となる可能性があります。発注者としては、結果的に必要な体制が組まれないまま当日を迎えるリスクを避けるため、事前確認が重要です。

Q. 何人くらい必要ですか?

A. 会場の広さ、動線、想定来場者数、時間帯ごとの集中度によって大きく変わるため、一律の目安を示すことはできません。法令上の配置基準は最低限の資格者数を定めたものであり、実際に必要な総人数はそれを上回るのが通常です。会場図と来場者数の想定を共有したうえで、警備会社に計画を立ててもらってください。

Q. どれくらい前に依頼すべきですか?

A. できるだけ早く(少なくとも1〜2か月以上前に)相談することをおすすめします。警察署との協議が必要な規模であれば、さらに前倒しが必要です。

警備員数そのものは令和6年12月末現在で58万7,848人と、前年から2,980人(0.5%)増加しています。ただし年齢構成を見ると、60歳以上が約47%を占める一方、30歳未満は10.4%にとどまります(警察庁「令和6年における警備業の概況」)。加えて、祭りや花火大会は週末や夏季に日程が集中するという性質があるため、同じ時期に依頼が重なりやすい点に注意が必要です。

まとめ|雑踏警備は「資格者の配置」が前提の業務

雑踏警備は、警備業法第2条第1項第2号に定める2号警備のうち、人の雑踏する場所における雑踏の整理を行う業務です。交通誘導警備と同じ2号でありながら、検定規則では別の種別として扱われ、検定合格警備員の配置に場所の限定がないという特徴があります。

依頼する側として押さえるべきは次の3点です。

  1. 資格者の配置が前提——ただし義務は「最低1人以上」。全員が有資格者である必要はなく、価格の高低を直接説明するものではない
  2. 会場が複数区域に分かれるなら1級が必要——業者の在籍状況が選定の判断材料になる
  3. 警備員に強制力はない——交通規制が必要なら主催者が警察署と協議する

計画が具体化してきたら、対応できる警備会社を早めに探し始めましょう。


【出典・参考】
警備業法(昭和47年法律第117号)|e-Gov法令検索(第2条第1項第2号・第15条・第18条)
警備員等の検定等に関する規則(平成17年国家公安委員会規則第20号)|e-Gov法令検索(第1条第3号・第4号、第2条および同条備考)
道路交通法(昭和35年法律第105号)|e-Gov法令検索(第6条第1項)
警視庁「検定合格警備員の配置基準」
神奈川県警察「雑踏警備配置基準質疑応答集」(区域の設定と契約の関係)
警察庁「令和6年における警備業の概況」(警備員数・年齢別構成)
※法令は2026年7月時点でe-Gov法令検索の現行条文と照合しています。本記事は一般的な情報提供であり、個別の案件に関する法的助言ではありません。実際の配置や手続については、所轄警察署および警備会社にご確認ください。