「不審者を追い出してもらいたい」「現場の前の道路で車を止めてもらいたい」「万引き犯を捕まえてもらいたい」——警備会社への問い合わせで、実際によく出てくる要望です。しかしそのまま契約書に書けるものと、書けないものが混在しています。理由は単純で、警備員は法律上、特別な権限を与えられていないからです。

とはいえ、これは「警備員には何もできない」という意味ではありません。警備員が現場で行っていることには、それぞれ別の法的な足場があります。その足場を知らないまま依頼すると、期待した対応が受けられない、あるいは発注者側が不適切な指示を出してしまうということが起こり得ます。

この記事では、全国の警備会社を地域と業務内容で探せる「近くの警備会社ナビ」編集部が、依頼する側(発注者)の目線で警備員の権限を整理しました。法令の記述はすべてe-Gov法令検索の現行条文と照合しています。

この記事でわかること

  • 警備員に特別な法的権限がないことの根拠条文(警備業法第15条)
  • それでも警備員が現場で動けている3つの法的な足場
  • 警備会社に頼めること・頼めないことの対照表【独自作成】
  • 現行犯逮捕は本当にできるのか(刑事訴訟法第212条〜第214条)
  • 交通誘導と交通整理の決定的な違い(道路交通法第6条第1項)
  • 依頼内容が警備会社に頼めるかを判断するフロー【独自作成】
  • 発注者が警備員に直接指示を出せない理由

結論|警備員に「特別な権限」はありません

まず、この記事の土台になる条文を確認します。警備業法第15条です。

警備業者及び警備員は、警備業務を行うに当たつては、この法律により特別に権限を与えられているものでないことに留意するとともに、他人の権利及び自由を侵害し、又は個人若しくは団体の正当な活動に干渉してはならない。

出典:警備業法第15条(e-Gov法令検索)

読みどころは2つあります。

  1. 「この法律により特別に権限を与えられているものでない」——警備業法は、警備員に警察官のような公的権限を与えるための法律ではありません。警備業法が定めているのは、警備業を営むための認定・教育・体制のルールです
  2. 「他人の権利及び自由を侵害し(中略)てはならない」——これは注意規定ではなく、警備業者・警備員に課された禁止事項です

つまり法的な立場としては、警備員は制服を着た民間人です。強制的に人を排除する権限も、車両を止める権限も、法律から与えられてはいません。

この点は服装のルールにも表れています。警備業法第16条第1項は、警備員は「内閣府令で定める公務員の法令に基づいて定められた制服と、色、型式又は標章により、明確に識別することができる服装を用いなければならない」と定めています。ここでいう公務員は、警備業法施行規則第27条により警察官及び海上保安官と定められています。これらと紛らわしい服装が禁じられているのは、権限を持つ者と持たない者を、見た目で区別できるようにするためです。

では、警備員は何を根拠に動いているのか【3つの足場】

特別な権限がないのに、なぜ警備員は入館を断ったり、通行を誘導したりできるのか。答えは権限の出どころが警備業法ではないところにあります。発注者にとって重要なのは、この3つの足場の違いです。

足場①:発注者自身が持つ管理権限(=あなたの権利を代わりに行使している)

これが、発注者にとって最も重要な視点です。

自社ビル、工場、マンション、イベント会場——これらの管理者は、自分の施設について「誰を入れるか」「どう使わせるか」を決められます。一般に施設管理権と呼ばれるもので、施設を所有・占有していることに伴う民事上の権利として説明されます(「施設管理権」という名称の条文があるわけではありません)。

施設警備で警備員が入退館を管理できているのは、警備員が権限を持っているからではなく、施設の管理者(=発注者)が本来持っている権限を、警備契約によって行使してもらっているという構造です。

ここから、発注者にとって実務的な結論が出ます。

  • あなたが持っていない権限は、警備会社に委ねようがない。他人の土地・公道での排除などは、契約書に書いても実現しません
  • どこまで委ねるかは契約と警備計画で決まる。「入館を断ってよい条件」「退去を求める場面」「その後どうするか」を事前に取り決めておかないと、現場の警備員は判断できません

なお、退去を求められたのに応じない行為については、刑法第130条が「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金に処する」と定めています(刑法第130条)。ただしこれはその行為が犯罪に当たることを定めた条文であって、警備員に実力で排除する権限を与えるものではありません。実際の対応では警察への通報が基本となります。個別のケースについては、警察および弁護士にご相談ください。

足場②:「誰でもできること」を、たまたま警備員が行っている

現行犯逮捕がその代表例です。詳しくは後述しますが、これは警備員だから認められているのではなく、誰にでも認められているものです。

同様に、刑法第36条第1項は「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない」と定めています(刑法第36条)。これも警備員に限った規定ではありません。

足場③:契約で引き受けた業務の範囲

そもそも警備業務は「他人の需要に応じて行うもの」と定義されています(警備業法第2条第1項)。巡回、監視、記録、報告、通報といった実務の大部分は、権限の問題ではなく契約でどこまで引き受けたかの問題です。ここが曖昧なままだと「そこまでやってくれると思っていた」というすれ違いが起きます。区分ごとの業務範囲は警備業務の種類まるわかり|1号〜4号を発注者向けに完全解説で整理しています。

【対照表】警備会社に頼めること・頼めないこと

発注者の依頼内容としてよく挙がるものを、根拠ごとに整理しました。

依頼したい内容 可否 法的な足場・注意点
敷地内の出入りを管理し、部外者の入場を断る 発注者の管理権限の委託。断る条件を契約・警備計画で決めておく
敷地内で不審な行動をする人に声をかける あくまで任意の声かけ。強制は不可
敷地内から退去を求める 求めることは可。応じない場合は警察へ通報するのが基本。実力での排除は不可
所持品を強制的に検査する × 相手の同意なしには行えません(警備業法第15条の趣旨から)
公道で車両を強制的に停止させる × 交通整理は警察官等の権限(道路交通法第6条第1項)
工事車両の出入りに合わせて通行者を誘導する 強制力のない誘導・合図。通行者の協力が前提
目の前で起きた犯罪の現行犯人を取り押さえる 刑事訴訟法第213条により何人でも可。ただし直ちに引渡し義務あり(同法第214条)
過去の万引き犯を後日つかまえる × 現行犯以外の逮捕は警備員にはできません
事情を聴き、身元を確認する 任意の会話として尋ねることは可能。ただし職務質問は警察官の権限(警察官職務執行法第2条第1項)であり、相手の意思に反する追及はできません
異常を発見して警察・消防へ通報する 契約上の基本業務。通報基準を決めておくと動きが速い
拾得物を預かり、施設の管理者へ引き継ぐ 遺失物法上の届出義務は施設占有者(=発注者側)にあります(後述)
警棒などの護身用具を携帯する 公安委員会規則で禁止・制限され得ます(警備業法第17条第1項)

※「近くの警備会社ナビ」編集部が条文をもとに作成。個別の事案の適否は、警備会社および弁護士にご確認ください。

警備員は現行犯逮捕できるのか【条文で確認】

最も誤解の多い論点です。順に条文を見ます。

現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。

出典:刑事訴訟法第212条第1項(e-Gov法令検索)

現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。

出典:刑事訴訟法第213条(e-Gov法令検索)

「何人でも」——これが答えです。現行犯逮捕は警備員の特権ではなく、一般人にも認められています。裏を返せば、警備員だからといって上乗せの権限があるわけではないということでもあります。

そして、私人が現行犯逮捕をした場合には義務が発生します。

検察官、検察事務官及び司法警察職員以外の者は、現行犯人を逮捕したときは、直ちにこれを地方検察庁若しくは区検察庁の検察官又は司法警察職員に引き渡さなければならない。

出典:刑事訴訟法第214条(e-Gov法令検索)

条文は「直ちに」引き渡さなければならないとしています。事務所で長時間問いただす、といった対応を許すものではありません。

さらに、軽微な犯罪については制限があります。刑事訴訟法第217条は、拘留・科料などの軽い刑に当たる罪の現行犯について、「犯人の住居若しくは氏名が明らかでない場合又は犯人が逃亡するおそれがある場合に限り」逮捕に関する規定を適用すると定めています。つまり「現行犯なら常に誰でも逮捕できる」わけではありません。警備の現場で起こりがちな軽微な事案ほど、この制限が効いてきます。判断に迷う場面では、取り押さえるより通報して警察の到着を待つほうが安全です。

また、現行犯に当たらないのに人を拘束すれば、刑法第220条(逮捕及び監禁)の問題になり得ます。だからこそ実務では、多くの警備会社が「まず通報」を基本方針としています。「取り押さえてくれるか」を依頼の条件にするのではなく、発見時の連絡フローと、警察到着までの対応をどう定めるかを打ち合わせるほうが、契約として現実的です。

なお、現行犯逮捕が適法に成立するかどうかは事案ごとの判断になります。本記事は条文の紹介にとどめます。具体的な場面での可否は、警察および弁護士にご相談ください。

交通誘導は「交通整理」ではありません

建設現場やイベントの発注者が最も期待とのギャップを感じやすいのが、この点です。道路交通法は、交通整理を行える者をこう定めています。

警察官又は第百十四条の四第一項に規定する交通巡視員(以下「警察官等」という。)は、手信号その他の信号(以下「手信号等」という。)により交通整理を行なうことができる。(後略)

出典:道路交通法第6条第1項(e-Gov法令検索)

同条は続けて、通行の禁止・制限などの措置も警察官の権限として定めています(同条第2項・第4項)。警備員はここに含まれていません。

したがって警備員が行うのは、強制力を伴わない誘導・合図・注意喚起です。ドライバーや歩行者が従うのは、法的義務があるからではなく、協力が得られているからです。この違いは、次のような実務上の帰結を生みます。

  • 公道の通行を法的に禁止・制限する権限を警備会社に委ねることはできません(規制現場での誘導業務そのものは、当然に発注できます)。道路使用許可などの手続は、原則として工事や行事を行う側が所轄警察署長に申請します(道路交通法第77条第1項。工事の請負人が申請主体になることもあります)
  • 誘導に従わない車両があっても、警備員に取り締まる手立てはありません。誘導は事故防止のための一手段であって、結果を保証するものではないという前提で計画を立てる必要があります

交通誘導の配置や体制の考え方は建設現場の警備手配ガイド|種類・費用・依頼の流れまとめもあわせてご覧ください。

【判断フロー】その依頼、警備会社に頼めますか?

依頼内容が現実的かどうかを、次の順に確認してみてください。

  1. その場所は、あなたが管理している場所ですか?
     → いいえ(公道・他人の土地):管理権限の委託は成立しません。道路使用許可などの手続や、施設所有者との調整が先になります
     → はい:次へ
  2. 相手の同意なしに、身体・持ち物・移動を制限する内容ですか?
     → はい:現行犯逮捕や正当防衛など法律上の根拠がある場面を除き、原則として引き受けられません(警備業法第15条の趣旨)。依頼内容の設計を見直してください
     → いいえ:次へ
  3. 犯罪への対応を含みますか?
     → はい:通報を基本フローとして設計し、警察到着までの対応(避難誘導・記録・現場保存など)を契約と警備計画に落とし込みます
     → いいえ:次へ
  4. その業務は、警備業法上のどの区分に当たりますか?
     → 施設内の警戒なら1号、通行の安全確保なら2号、といった具合に区分が変われば、必要な資格者や体制も変わります(4区分の解説はこちら
  5. その内容は、契約書と警備計画に書き込めていますか?
     → 書けていなければ、現場の警備員は動けません。ここが最終チェックです

※「近くの警備会社ナビ」編集部作成。あくまで検討の順序を整理したもので、法的助言ではありません。

発注者が警備員に直接指示を出せない理由

意外と知られていないのが、この点です。労働者派遣法は、警備業務について次のように定めています。

何人も、次の各号のいずれかに該当する業務について、労働者派遣事業を行つてはならない。
(中略)
三 警備業法(昭和四十七年法律第百十七号)第二条第一項各号に掲げる業務(後略)

出典:労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)第4条第1項第3号(e-Gov法令検索)

警備業務は労働者派遣を行ってはならない業務とされています。つまり警備の契約は請負・委託であり、現場の警備員に対する指揮命令は警備会社が行います。発注者が警備員に直接あれこれ指示を出す運用は、この建て付けと整合しません。

実務的には、やってほしいことは契約前に洗い出しておく(当日の思いつきで業務を追加できない)、要望は現場の隊員ではなく警備会社の責任者を通す双方の連絡窓口を1本化しておく——この3点を押さえておけば大きな齟齬は起きにくくなります。

落とし物への対応は「発注者側の義務」です

権限と義務の所在が混同されやすい例なので触れておきます。遺失物法は、施設内で物件を拾得した者は「速やかに、当該物件を当該施設の施設占有者に交付しなければならない」と定め(遺失物法第4条第2項)、交付を受けた施設占有者に対して、遺失者への返還または警察署長への提出を義務づけています(同法第13条第1項)。不特定多数が利用する施設の占有者には、掲示等の義務もあります(同法第16条)。

これらの義務を負うのは施設占有者、つまり多くの場合は発注者側です。警備員が拾得物を受け取って保管する運用にしていても、法律上の届出義務が警備会社へ移るわけではありません。誰がいつ警察署へ提出するのかを、契約時に決めておいてください。

依頼前チェックリスト

権限の観点から、契約前に詰めておきたい項目です。

  • 入場を断る条件は明文化されているか(対象者・時間帯・持ち込み禁止物など)
  • 退去を求める場面と、応じない場合のフロー(通報の基準・連絡先)が決まっているか
  • 警察・消防へ通報する基準が共有されているか
  • 緊急時の連絡系統(発注者側の窓口・警備会社側の責任者)が1本化されているか
  • 拾得物の取扱いと、警察署への提出を誰が行うかが決まっているか
  • 公道にかかる部分について、道路使用許可などの手続の担当が決まっているか
  • 依頼先が公安委員会の認定を受けているか(確認方法は警備会社の認定番号とは|正規業者かを確認する方法

複数社を比較する際の進め方は警備の相見積もりの取り方|比較のコツと失礼にならぬ作法で解説しています。

よくある質問

Q. 警備員に職務質問はできますか?

A. できません。職務質問は警察官の権限です。警備員が行えるのは、管理している施設内での任意の声かけまでで、相手が応じない場合に追及することはできません(警備業法第15条)。

Q. 警備員は警棒を持てますか?

A. 携帯できる場合がありますが、無条件ではありません。警備業法第17条第1項は、公安委員会が「公共の安全を維持するため必要があると認めるときは」都道府県公安委員会規則により携帯を禁止し、又は制限することができると定めています。具体的な種類・規格の扱いは都道府県ごとに異なるため、依頼先の警備会社にご確認ください。

Q. 警備員がいれば、トラブルは起きなくなりますか?

A. そうした保証はできません。警備員に強制力がない以上、対応には限界があります。警備は異常の早期発見と、決められた手順に沿った初動対応を担う仕組みであり、結果を約束するものではない、という前提でご検討ください。

Q. 警備員が誘導した結果、事故が起きたら誰の責任ですか?

A. 個別の事案によって判断が分かれるため、一般論として述べることはできません。契約書に業務範囲・責任分担・保険(賠償責任保険の加入状況と補償範囲)がどう書かれているかが実務上の要点になります。具体的なケースは弁護士にご相談ください。

Q. 契約中の警備会社の対応範囲に不満があります。どうすれば?

A. まずは「権限がなくてできないこと」なのか「契約に書いていないだけでできること」なのかを切り分けてください。後者であれば、契約内容の見直しで解決できる場合があります。会社を変える場合の進め方は警備会社の変更・乗り換え手順|引き継ぎと注意点まとめにまとめています。

まとめ|権限ではなく「設計」で決まる

警備員は、警備業法により特別な権限を与えられた存在ではありません(警備業法第15条)。現行犯逮捕は「何人でも」できることであり(刑事訴訟法第213条)、交通整理は警察官等の権限です(道路交通法第6条第1項)。

そのうえで、発注者が押さえるべきは次の3点です。

  1. 警備員が現場で動ける根拠の多くは、発注者自身の管理権限にある——あなたが持っていない権限は委ねられません
  2. できることの範囲は、契約書と警備計画で決まる——権限の問題と、契約に書いたかどうかの問題を混同しないこと
  3. 指揮命令は警備会社が行う——警備業務は労働者派遣が禁止された業務です(労働者派遣法第4条第1項第3号)。当日の追加依頼を前提にしない設計が必要です

「何を頼めるか」が整理できたら、その内容に対応できる警備会社を探す段階です。


【出典・参考】
警備業法(昭和47年法律第117号)|e-Gov法令検索(第2条第1項・第15条・第16条第1項・第17条第1項)
警備業法施行規則(昭和58年総理府令第1号)|e-Gov法令検索(第27条)
刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)|e-Gov法令検索(第212条第1項・第213条・第214条・第217条)
道路交通法(昭和35年法律第105号)|e-Gov法令検索(第6条第1項・第2項・第4項、第77条)
刑法(明治40年法律第45号)|e-Gov法令検索(第36条第1項・第130条・第220条)
遺失物法(平成18年法律第73号)|e-Gov法令検索(第4条第2項・第13条第1項・第16条)
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)|e-Gov法令検索(第4条第1項第3号)
※法令は2026年7月時点でe-Gov法令検索の現行条文と照合しています。本記事は一般的な情報提供であり、個別の案件に関する法的助言ではありません。実際の対応可否や責任の所在については、所轄警察署・警備会社・弁護士にご確認ください。