「外来で職員が患者から暴言を受けた」「夜間の救急外来に酔った来院者が現れて対応に困った」「認知症の患者さんが夜間に出入口へ向かってしまう」——病院・医療機関の管理者が警備を検討するきっかけは、こうした院内のトラブル対応であることがほとんどです。ところが「病院の警備」で検索しても、警備員の仕事内容を紹介する求職者向けの記事や、警備会社の自社サービス案内が中心で、発注する側が「何を、どんな体制で頼めばよいのか」がはっきりしません。

この記事では、全国の警備会社を地域と業務内容で探せる「近くの警備会社ナビ」編集部が、病院の管理者が警備を入れるときの考え方を発注者目線で整理しました。院内暴力などの実態は全日本病院協会・厚生労働省の公表資料、法令の記述はe-Gov法令検索の現行条文と照合しています。警備員に何ができて何ができないのかという権限の限界まで正確に押さえたうえで、体制の組み方と依頼手順を解説します。

この記事でわかること

  • 病院の警備は法律上どの区分か(主に1号=施設警備+機械警備の組み合わせ)
  • 病院特有の警備需要(院内暴力・夜間救急・不審者・徘徊・駐車場・個人情報配慮)と、その裏づけとなる公的データ
  • 警備員が「できること・できないこと」——特別な権限はない(警備業法第15条)という前提
  • 常駐・巡回・機械警備の使い分け【比較表】
  • 依頼前に確認すべきこと【チェックリスト】と、費用が動く要因
  • 認定確認から契約までの依頼の流れ

病院の警備はどの区分?|主に1号(施設)警備+機械警備

病院の警備は、法律上の区分でいうと警備業法第2条第1項第1号の「施設警備」が中心になります。同号は警備業務を次のように定義しています(出典:警備業法第2条(e-Gov法令検索))。

事務所、住宅、興行場、駐車場、遊園地等における盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務

病院という「施設」において、盗難・不審者・事故などを警戒し防止するのが施設警備です。施設警備は現場での担い方によって、警備員が常時配置される常駐警備、決められた経路を見回る巡回警備、センサーやカメラで検知して駆けつける機械警備(同条第5項に定める1号警備の一形態)に分かれます。病院では、この3つを時間帯や区画に応じて組み合わせるのが一般的です。区分全体の整理は施設警備(1号警備)に対応する警備会社を探すもあわせてご覧ください。

なお、駐車場の車両誘導を本格的に行う場合は第2号(交通誘導)の要素が、現金を扱う会計・売店で貴重品運搬を伴う場合は第3号の要素が加わることもありますが、病院警備の土台はあくまで1号(施設)警備です。

病院特有の警備需要|なぜ病院に警備が必要とされるのか

病院は「不特定多数が24時間出入りする」「体調や感情が不安定な人が集まる」「救急で急な来院がある」という、他の施設にはない事情を抱えています。とくに近年課題として繰り返し指摘されているのが院内暴力(ペイシェント・ハラスメント)です。

全日本病院協会が会員病院を対象に行った「院内暴力など院内リスク管理体制に関する医療機関実態調査」(調査期間2007年12月〜2008年1月、会員2,248病院を対象に1,106病院が回答=有効回答率49.2%)では、過去1年間に職員に対する院内暴力(身体的暴力・精神的暴力・セクハラ等)の事例を経験した病院が52.1%(576病院)にのぼりました。発生件数では、暴言などの精神的暴力(患者本人によるもの2,652件)が身体的暴力(同2,253件)を上回り、一方で警察への届出は発生件数の5.8%にとどまるなど、多くが病院内だけで対応されている実態が示されています(出典:全日本病院協会「院内暴力など院内リスク管理体制に関する医療機関実態調査」(2008年4月))。

同調査では、認知症等による徘徊や興奮への対応、入院患者の飲酒・酩酊への対応といった課題も挙げられており、これらは夜間・救急外来での対応院内の見回りの必要性に直結します。国(厚生労働省)も医療従事者・管理者向けに暴力・ハラスメント対策の教材を公表しており、院内暴力対策は医療現場で広く認識された課題となっています(出典:厚生労働省「医療現場及び訪問看護における暴力・ハラスメント対策」)。

ただし注意したいのは、こうしたデータは「警備員を置けば暴力が防げる」ことを意味しないという点です。警備は組織的な暴力対策(マニュアル整備・職員研修・警察との連携など)の一部を担うものであり、後述のとおり警備員には特別な権限がありません。

病院で警備が担う主な役割

契約で定める内容によりますが、病院警備で代表的な業務は次のとおりです。院内暴力への「対応」だけでなく、トラブルが起きにくい環境をつくる予防・抑止の役割が大きいのが特徴です。

  • 出入管理・受付補助:夜間・時間外の出入口管理、来院者の案内、部外者・営業目的の立ち入りの確認
  • 院内・敷地の巡回:病棟・外来・駐車場・機械室などの定期巡回、施錠確認、異常の早期発見
  • 夜間・救急外来の対応:夜間の人員が手薄になる時間帯の見回り、救急外来での来院者対応の補助、職員からの応援要請への急行
  • 不審者・迷惑行為への初動:不審な人物への声かけ・確認、トラブル発生時の現場確認と職員・警察への連絡
  • 患者の見守り補助:認知症患者の離院(無断外出)が疑われる場面での気づき・連絡(医療的判断は職員が行う前提の補助)
  • 駐車場・車両の管理:救急車両の動線確保、駐車トラブルへの対応
  • 報告:巡回結果・発生事案の記録と報告(安全管理の資料になります)

これらの多くは制服警備員による「見せる警備」として行われ、警備員が院内にいること自体が迷惑行為の抑止につながる面があります。ただし後述のとおり、抑止を期待できても被害を保証するものではありません。

警備員にできること・できないこと|「取り押さえ」への過度な期待は禁物

病院警備で最も誤解されやすいのが、暴れる患者や不審者を警備員が「取り押さえてくれる」という期待です。結論から言うと、警備員に警察官のような特別な権限はありません。警備業法第15条は次のように定めています(出典:警備業法第15条(e-Gov法令検索))。

警備業者及び警備員は、警備業務を行うに当たっては、この法律により特別に権限を与えられているものでないことに留意するとともに、他人の権利及び自由を侵害し、又は個人若しくは団体の正当な活動に干渉してはならない。

つまり警備員が院内でできることは、基本的に一般の私人と同じ範囲です。暴力行為などの現行犯に対しては、一般市民にも認められる現行犯逮捕(刑事訴訟法第213条)の範囲で確保することはできますが、私人が現行犯逮捕したときは刑事訴訟法第214条により直ちに警察官へ引き渡さなければなりません。あくまで例外的・最小限の対応であり、日常的な役割は「取り押さえ」ではなく、声かけ・確認・記録・職員や警察への通報・現場の安全確保です。過剰な制圧や誤認による拘束は、病院と警備会社の双方が損害賠償等の責任を問われるリスクがあります(出典:刑事訴訟法第213条・第214条(e-Gov法令検索))。警備員の権限全般や、警察官・私人との違いは警備員の権限とできること・できないことで詳しく解説しています。

そのため院内暴力への備えは、警備員任せにせず、院内の緊急対応体制(応援を集める合図の取り決め、通報ルート、職員研修)と警備を組み合わせるのが実務の基本です。依頼前には、その警備会社が声かけ・確保のルール、職員との連携方法、教育体制をどう定めているかを必ず確認しましょう。警備業者には、その警備員に対して警備業務を適正に実施させるための教育を行う義務があります(警備業法第21条第2項)。

病院の警備体制の組み方【比較表】|常駐・巡回・機械の使い分け

病院の警備は「常駐か機械か」の二択ではなく、時間帯・区画ごとに方式を組み合わせて設計するのがポイントです。それぞれの特徴と向くケースを整理します。

方式 主な狙い その場での対応力 費用感 病院で向くケース
常駐警備 受付・出入管理・院内の見張りを常時行う 高い(人がその場にいる) 高い(配置時間分の人件費) 外来のある日中・夜間救急のある時間帯・出入口が多い病院
巡回警備 決めた経路を定期的に見回る 巡回時のみ 中(巡回回数分) 夜間・休診日の見回り、広い敷地・駐車場の点検
機械警備 センサー・カメラで検知し駆けつける 検知のみ(対応は到着後) 低〜中(月額制が中心) 無人時間帯が長い区画、機械室・薬品庫・裏口などの区画防犯

実務では「外来がある日中と夜間救急の時間帯は常駐、それ以外の時間帯は巡回+機械警備」「本館は常駐、離れた別棟や駐車場は機械警備」といった組み合わせがよく採られます。まずは時間帯別・区画別に『いつ・どこで・何が起きると困るか』を洗い出し、リスクの高いところに人を厚く配置するのが基本設計です。巡回警備の設計の考え方は巡回警備とは|常駐との違い・巡回頻度と料金の考え方、配置人数の考え方は警備員の必要人数の決め方を参照してください。

依頼前チェックリスト|病院の警備を頼む前に決めておくこと

見積もりや比較をスムーズにし、依頼後のミスマッチを防ぐために、依頼前に次の項目を整理しておきましょう。

  • 目的の明確化:院内暴力対応・夜間の見回り・不審者対策・駐車場管理など、最も困っていることは何か
  • 時間帯:終日か、外来時間だけか、夜間・救急対応の時間帯か
  • 配置場所と区画:受付・出入口・病棟・駐車場・別棟のうち、どこに人を置き、どこは機械警備でよいか
  • 院内の連携ルール:職員が応援を求める合図・連絡ルート、警察への通報基準を警備会社と共有できるか
  • 声かけ・確保のルールと教育:暴力・不審者対応時の手順や研修を会社がどう定めているか(第21条第2項の教育の内容)
  • 個人情報・守秘の取り決め:警備員が患者情報・カルテ・防犯カメラ映像に触れうる範囲と、守秘義務・情報の取扱いを契約で定めているか
  • 認定の有無:都道府県公安委員会の認定を受けた警備業者か(認定証番号の確認)
  • 実績:病院・医療機関での警備実績があるか

とくに病院は患者の要配慮個人情報を大量に扱う施設です。警備員が受付・防犯カメラ・巡回を通じて患者情報に接する可能性があるため、守秘義務と情報の取扱いを契約書面に明記しておくことが重要です。

病院警備の費用の考え方

病院警備(常駐)の料金は、一般に「警備員1人あたりの時間単価×配置時間×人数」で組み立てられ、金額は次の要素で変わります。病院に特化した公的な料金統計はないため、以下は費用が動く要因の整理です。

  • 配置時間と人数:24時間常駐か、夜間・救急の時間帯だけかで大きく変わります
  • 時間帯:深夜帯(原則22時〜翌5時。労働基準法第37条第4項により25%以上の割増賃金が必要な時間帯)や休日を含むと単価が上がります
  • 常駐か機械か:機械警備は月額制が中心で、常駐に比べ費用を抑えやすい一方、その場での対応は駆けつけ後になります
  • 警備員の経験・資格:施設警備業務検定の合格者を求めるかどうか
  • 業務範囲:出入管理・巡回に加え、受付補助・駐車場対応・報告書作成まで含むか

時間単価の水準は地域によって差があります。公共工事で用いられる警備員の労務単価は都道府県別に定められており、同じ条件でも地域が違えば妥当な単価は変わります。全国平均を物差しにして「これより安いのは不当」と決めつけないよう注意してください。金額は条件で大きく動くため、配置時間・人数・業務範囲を同じ条件にそろえて複数社から見積を取り、比較するのが基本です。常駐型の費用感は施設警備の費用相場|月額いくら?日勤・24時間体制別に試算で詳しく解説しています。

依頼の流れ|問い合わせから警備開始まで

  1. 問い合わせ・ヒアリング:病院の規模・診療科・出入口の数・救急の有無・困っている事案(時間帯・場所)を伝えます
  2. 提案:警備会社が常駐/巡回/機械の別、配置時間・人数、院内連携の方針などを提案します
  3. 見積・比較:配置時間・人数・業務範囲が同一条件になるようそろえて複数社を比較します
  4. 認定の確認:依頼先が都道府県公安委員会の認定を受けた警備業者であることを確認します(警備業法第4条)。認定業者は認定を示す標識を主たる営業所に掲示するほか、事業規模が著しく小さい場合等を除きウェブサイト等で公衆の閲覧に供することが義務づけられています(同法第6条第1項)
  5. 契約:警備業法第19条により、警備会社には契約締結前の概要書面と締結後の契約書面の交付が義務づけられています。声かけ・確保のルール、報告方法、対応範囲、守秘義務が書面に明記されているか確認しましょう(書面は同条第3項により、依頼者の承諾があれば電磁的方法での提供も認められています)
  6. 警備開始・見直し:開始後は報告に目を通し、時間帯や配置の過不足、院内連携の運用を定期的に見直します

よくある質問

Q. 病院の警備は何号警備になりますか?

A. 主に1号(施設)警備です。病院という施設で盗難・不審者・事故などを警戒・防止する業務は、警備業法第2条第1項第1号に当たります。実務では常駐・巡回・機械警備を時間帯や区画で組み合わせます。駐車場の車両誘導を本格的に行う場合は第2号(交通誘導)の要素が加わることもあります。

Q. 暴れる患者や不審者を警備員に取り押さえてもらえますか?

A. 警備員に警察官のような特別な権限はありません(警備業法第15条)。暴力行為などの現行犯に対しては、一般市民にも認められる現行犯逮捕(刑事訴訟法第213条)の範囲で確保することはできますが、その場合も直ちに警察へ引き渡す必要があります(同法第214条)。日常的な役割は取り押さえではなく、声かけ・確認・通報・現場の安全確保です。院内の緊急対応体制や警察との連携と組み合わせて備えるのが基本です。

Q. 夜間・救急外来の時間帯だけ警備を頼めますか?

A. 可能です。人員が手薄になる夜間や救急対応の時間帯だけ常駐を置き、それ以外は巡回や機械警備で補う、といった時間帯別の設計はよく行われます。ただし深夜帯は割増賃金の対象となるため、日中より単価が上がる点に留意してください。

Q. 費用はどのくらいかかりますか?

A. 配置時間・人数・時間帯・業務範囲によって大きく変わり、病院に特化した公的な料金統計はありません。警備員の労務単価は都道府県別に差があるため、自院のある地域の相場を前提に、条件をそろえて複数社から見積を取り比較するのが確実です。詳しくは施設警備の費用相場の記事をご覧ください。

Q. 警備員に患者の情報を見られてしまいませんか?

A. 警備員は受付補助・防犯カメラ・巡回を通じて患者情報に接する可能性があります。病院は要配慮個人情報を扱う施設のため、守秘義務と情報の取扱い範囲を契約書面に明記し、教育が行われているかを確認しましょう。契約書面の交付は警備業法第19条で義務づけられています。

Q. 警備員を置けば院内暴力は防げますか?

A. 警備員がいることで一定の抑止は期待できますが、暴力を防げることを保証するものではありません。院内暴力対策は、マニュアル整備・職員研修・警察との連携・記録の仕組みといった組織的な取り組みが土台であり、警備はその一部を担うものと位置づけるのが適切です。

まとめ|病院の警備は「1号+機械」を時間帯・区画で組み合わせる

病院の警備は、法律上は主に1号(施設)警備で、常駐・巡回・機械警備を時間帯と区画に応じて組み合わせて設計します。院内暴力・夜間救急・不審者・徘徊・駐車場・個人情報配慮という病院特有の需要に対して、警備は予防・抑止と初動対応を担いますが、警備員に特別な権限はなく(警備業法第15条)、取り押さえは私人としての最小限の範囲にとどまります。だからこそ、院内の緊急対応体制や警察との連携と組み合わせ、声かけ・確保のルール・教育体制・守秘の取り決めを確認したうえで、認定を受けた警備業者の提案を複数社比較して決めることが大切です。

お近くのエリアから、病院・施設の警備に対応する警備会社を探せます。


【出典・参考】
警備業法(昭和47年法律第117号)|e-Gov法令検索(第2条・第4条・第6条・第15条・第19条・第21条)
刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)|e-Gov法令検索(第213条・第214条)
労働基準法(昭和22年法律第49号)|e-Gov法令検索(第37条第4項・深夜割増)
全日本病院協会「院内暴力など院内リスク管理体制に関する医療機関実態調査」(2008年4月)(院内暴力の経験割合52.1%・精神的/身体的暴力の件数・警察届出割合5.8%ほか)
厚生労働省「医療現場及び訪問看護における暴力・ハラスメント対策」(医療従事者・管理者向けの暴力・ハラスメント対策教材)
※法令・統計は2026年7月時点でe-Gov法令検索および各公表資料と照合しています。本文中の費用に関する記述はいずれも目安であり、実際は個別の見積によります。本記事は一般的な情報提供であり、個別案件に関する法的助言ではありません。