「見積金額はほとんど同じなのに、現場に来る警備員の質がまるで違う」——建設会社の現場代理人やイベント主催者、施設の管理担当者から、こうした声をよく聞きます。発注前に書面と質問だけで確かめられる数少ない手がかりが、その会社の警備員教育です。

警備員教育は熱心な会社が任意でやっていることではなく、警備業法が課した法律上の義務で、時間数・内容・記録の残し方まで法令が決めています。だからこそ、やっている会社は必ず記録を持っており、やっていない会社は出せません。ところが調べて出てくるのは働きたい人向けの解説が中心で、しかも2019年の改正で短縮される前の古い数字(新任30時間・年16時間)を載せたままの記事が今も数多く残っています。この記事では「近くの警備会社ナビ」編集部が、依頼する側の目線で制度を整理しました。数値・条番号・改正年月日は、e-Gov法令検索の現行条文と警察庁の通達の原典で照合しています。

この記事でわかること

  • 警備員教育が法律上の義務である根拠(警備業法第21条第2項・施行規則第38条)
  • 新任教育・現任教育の時間数【一覧表】(第38条第4項・第5項の表を依頼者向けに整理)
  • 2019年の改正で何がどう変わったか【新旧比較表】。古い数字の見分け方
  • 1級と2級で扱いが違う「教育の免除」(2級合格者の現任教育はゼロになりません)
  • 教育の中身と、オンライン講義が認められる4つの要件
  • 発注者が教育体制を確認する方法【チェックリスト】と、教育不足の会社に頼んだときのリスク

警備員教育は法律上の義務|根拠は警備業法第21条第2項

押さえるべき条文は1つです。警備業法第21条第2項は、警備業者は「その警備員に対し、警備業務を適正に実施させるため……内閣府令で定めるところにより教育を行うとともに、必要な指導及び監督をしなければならない」と定めています。この「内閣府令」が警備業法施行規則で、教育の中身と時間数を定めているのが同規則第38条です(出典:警備業法第21条警備業法施行規則第38条/e-Gov法令検索)。

同条第1項は、警備員教育を基本教育(法令・基本原則・応急措置・護身の方法などの共通科目)、業務別教育(従事させる業務の区分ごとの知識・技能)、必要に応じて行う向上のための教育の3つで構成すると定め、第4項が新任教育、第5項が現任教育の時間数を定めています。新任教育は「従事させようとする」段階の義務ですから、これを済ませないまま現場に立たせることはできません。なお法第14条は、18歳未満の者と第3条の欠格事由に該当する者を警備員から排除しています。

「他社が教育済み」は免罪符にならない

発注者にとって実務上いちばん効いてくるのがこの点です。警察庁の解釈運用基準は、次のように明言しています。

警備業者は、自己が使用して警備業務に従事させる警備員に対しては、自らの責任において教育等を行わなければならず、当該警備員に対して他の警備業者が既に教育等を行っていたとしても、そのことをもって教育等の義務を免れることにはならない。(警察庁「警備業法等の解釈運用基準について(通達)」令和元年8月30日付け丙生企発第23号)

同じ通達は、警備業務が労働者供給事業的な形態でも労働者派遣事業的な形態でも行うことを禁じられていること(職業安定法第44条、労働者派遣法第4条第1項第3号)も示しています。したがって、繁忙期に別の警備会社へ再委託される場合は再委託先も自社の責任で教育していなければならず、発注者は「契約相手」だけでなく「実際に現場に立つ会社」の教育体制まで確認する必要があります(警備の依頼の流れ)。

【一覧表】新任教育の時間数(施行規則第38条第4項)

新任教育の時間数は、その警備員の経歴・資格によって7段階に分かれます。条文の表の「一の項」「二の項」…がそのまま区分です。

条文の区分 対象となる警備員 教育の種類 教育時間数
柱書(除外) 検定合格証明書を持ちその種別の業務/指導教育責任者資格者証を持ちその区分の業務に就かせる など 新任教育そのものが不要
一の項 二〜七の項に当てはまらない警備員(=免除・短縮の対象にならない者。未経験者のほか経験1年未満の者も含む) 基本教育および業務別教育 20時間以上
二の項 検定合格証明書・指導教育責任者資格者証を持つが、その種別/区分以外の業務に就かせる場合 業務別教育 10時間以上
三の項 二の項のうち、最近3年間にその業務に従事した期間が通算1年以上ある者 業務別教育 3時間以上
四の項 機械警備業務管理者資格者証を持ち、機械警備業務に就かせる場合 基本教育 10時間以上
五の項 四の項のうち、最近3年間の警備業務従事期間が通算1年以上、または警察官の職が通算1年以上の者 基本教育 3時間以上
六の項 最近3年間にその区分に通算1年以上従事し、同じ区分の業務に就かせる場合 基本教育および業務別教育 7時間以上
七の項 最近3年間にその区分に通算1年以上従事したが別の区分に就かせる場合/警察官の職が通算1年以上の者 基本教育および業務別教育 13時間以上

見落とされがちなのが、20時間は「基本教育+業務別教育の合計」の下限であって、条文は「基本教育10時間・業務別教育10時間」といった内訳を定めていない点です(2019年の改正で両者の時間数は統合されました)。また業務別教育の一部は、警備員一人に対して一人以上の指導教育責任者等が現場で行う方式(実地教育)に振り替えられますが、一の項・七の項は「業務別教育の2分の1」か「5時間」の少ないほうまで、六の項は2分の1か2時間まで、二の項は5時間まで、三の項は2時間までという上限があります(同条第3項の表の備考)。

【一覧表】現任教育の時間数(施行規則第38条第5項)

現任教育は、すでに働いている警備員に毎年度行う教育です。区分は2つだけです。

条文の区分 対象となる警備員 教育の種類 教育時間数
柱書(除外) 1級の検定合格証明書を持ちその種別の業務に従事させている者/②指導教育責任者資格者証を持ちその区分の業務に従事させている者 現任教育が不要
一の項 二の項に当てはまらない警備員(=一般の警備員) 基本教育および業務別教育 毎年度10時間以上
二の項 ①検定合格証明書を持つがその種別以外の業務に従事/②2級の検定合格証明書を持ちその種別の業務に従事/③指導教育責任者資格者証を持つがその区分以外の業務に従事 業務別教育 毎年度6時間以上

1級と2級で扱いが違う——ここは間違えやすいところです

条文は現任教育の免除対象を「合格証明書(国家公安委員会が定めるものに限る)の交付を受けている警備員」と書いており、これが何を指すかは条文だけでは読めません。警察庁の解釈運用基準が、これを「1級合格証明書」と明示しています(丙生企発第23号)。

つまり現任教育が完全に免除されるのは1級の検定合格者(と指導教育責任者)だけで、2級の検定合格者は、その種別の業務に就いていても毎年度6時間以上の業務別教育が必要です。一方、新任教育は1級・2級を区別しません。「検定合格者だから教育は要らない」という説明を受けたら、それは1級ですか2級ですか、新任と現任のどちらですかと確認してください(検定合格警備員とは交通誘導員の配置基準)。なお、その年度に新任教育を行った警備員には現任教育を重ねなくてよい部分がありますが、免除の範囲は限られています。基本教育の免除は新任教育の表の一の項(20時間以上)を受けた者に限られ業務別教育の免除はその区分の業務についてのみ及びます(同項の表の備考一・二)。

2019年(令和元年)の改正で何が変わったか【新旧比較表】

現行の20時間・10時間は比較的新しい数字です。警備業法施行規則の一部を改正する内閣府令(令和元年内閣府令第24号)令和元年(2019年)8月30日に公布・施行されて短縮されました。

項目 2019年8月30日より前 現行(2019年8月30日〜)
新任教育(一般の警備員) 基本15時間以上+業務別15時間以上=合計30時間以上 基本・業務別を合わせて20時間以上(3分の2に短縮)
新任教育の実地教育の上限(一般の警備員=一の項) 8時間 実施する業務別教育の2分の1(上限5時間)
現任教育の頻度 半年(教育期)ごと 年度ごと
現任教育(一般の警備員) 半年ごとに基本3時間以上+業務別5時間以上=年16時間以上 年度ごとに10時間以上(16分の10に短縮)
現任教育(2級合格者がその種別に従事 等) 半年ごとに5時間以上(=年10時間以上) 年度ごとに6時間以上
基本教育と業務別教育の関係 それぞれに時間数の下限 両方必要な場合は時間数を統合
講義の方法 対面による講義に限定 要件を満たせば非対面(オンライン)の講義も可

短縮は規制の手抜きではありません。警察庁の通達は趣旨を「……指導教育体制の充実及び警備員の質の向上が図られたことで、より短時間の教育で教育目的を達成することができる状況にあること等を踏まえ」た見直しと説明しています(丙生企発第22号)。発注者にとっての意味は2つ。「新任30時間」「年16時間」と書かれた資料は改正前の情報だと判断できること。そして現任教育の管理単位が「半年」から「年度」に変わったことです。

教育の中身とオンライン講義が認められる範囲

内容も第38条が定めています。基本教育(新任)は、①警備業務実施の基本原則、②警備員の資質の向上、③警備業法その他警備業務の適正な実施に必要な法令、④事故発生時の警察機関への連絡その他応急の措置、⑤護身用具の使用方法その他の護身の方法——の5項目で、④⑤は講義に加えて実技訓練が必要です(同条第2項の表の備考二)。業務別教育は区分ごとに内容が変わり、1号は出入管理や巡回、2号は誘導・雑踏整理、3号は伴走と積卸し時の警戒、4号は警戒位置と避難等の措置、機械警備は基地局受信時の事実確認などです。ある区分で実績が豊富な会社が、別の区分でも同じ水準とは限りません警備業務の種類まるわかり)。

2019年の改正で、講義は電気通信回線を使用した非対面の方法でも実施できるようになりました。ただし施行規則第38条第2項の表の備考三は、次の4つのすべてに該当するものに限ると定めています。

  1. 受講者が本人であるかどうかを確認できるものであること
  2. 受講者の受講の状況を確認できるものであること
  3. 受講者の警備業務に関する知識の習得の状況を確認できるものであること
  4. 質疑応答の機会が確保されているものであること

この備考三は「前号及び次項の講義の方法」と受けているため、基本教育と業務別教育の双方の講義に及びます。一方で実技訓練や実地教育はオンラインの対象ではありません。解釈運用基準は、①をID・パスワード等による受講前の本人確認、②を講習中に最低1回の目視・点呼等、③を教材中の設問や効果測定、④をメール等で質問できる仕組みと具体化し、教材は初回視聴時にスキップできないものである必要があるとも明記しています。

【チェックリスト】発注者が教育体制を確認する方法

教育は記録が残る義務なので、聞けば答えられるはずのことばかりです。見積依頼や契約前の打合せで次の6点を確認してください。答えに詰まる、書類の名前が出てこない、という反応そのものが判断材料です。

① 警備員指導教育責任者は、頼む区分で選任されていますか

警備業法第22条第1項は、営業所ごと、かつその営業所で取り扱う警備業務の区分ごとに指導教育責任者を選任することを義務づけ、施行規則第39条は原則専任で置くべきものとしています。聞き方の例:「今回お願いする○号業務の、この営業所の指導教育責任者はどなたですか」。交通誘導を頼むのに1号の資格者しかいない状態は、体制が整っていないサインです。ただし法第22条第1項ただし書は、指導教育責任者が欠けた日から14日間は選任を要しないとし、施行規則第39条第2項・第3項には専任でなくてよい場合の定めもあります。「補充中」という説明はこの例外に当たることもあります。選任を怠れば100万円以下の罰金の対象です(法第57条第5号)。

② 今年度の教育計画書はありますか

施行規則第66条第1項第5号は、年度ごとに、実施時期・内容・方法・時間数・実施者の氏名・対象とする警備員の範囲を記載した教育計画書を営業所に備えることを義務づけ、同条第3項は当該年度の開始の日の30日前までに備えることを求めています。聞き方の例:「今年度の教育計画書は、いつ作成されたものですか」。年度が始まる前にできているのが法令どおりです。

③ 教育の実施記録は残っていますか(保存は2年)

同項第6号は、年度ごとに実施年月日・内容・方法・時間数・実施場所・実施者の氏名・対象となった警備員の氏名を記録し、指導教育責任者および実施者が誤りがないことを確認する旨を付記した書類を備えることを義務づけています。計画書とこの記録は当該年度の終了後2年間の保存が必要です(同条第2項)。聞き方の例:「昨年度の教育実施記録は、どなたの確認が入る様式ですか」。

④ 警備員名簿に教育の記録が載っていますか

同項第1号ロは、警備員の名簿にその警備員へ行った教育の実施年月日・内容・時間数・実施者の氏名を記載することを求めています。名簿は個人情報ですから開示を求める筋合いではありませんが、「どういう項目を管理していますか」と聞くだけでも体制の有無は伝わります。

⑤ 新人が現場に立つまでの流れを説明できますか

聞き方の例:「未経験で入った方は、何時間の新任教育を受けて、いつから現場に出ますか」。免除・短縮に当たらない未経験者は20時間以上が下限です。「経験者だから短くしている」という説明が出たら、最近3年間の従事期間が通算1年以上あるか/同じ区分か別の区分かという条文の要件に沿って説明できるかを見てください。

⑥ 実際に現場に立つのは、契約する会社の警備員ですか

再委託がある場合、再委託先も自社の責任で教育を行う義務を負います聞き方の例:「今回、再委託の予定はありますか。ある場合、その会社の教育体制は確認されていますか」。再委託の可否・範囲・実際に実施する警備業者の名称等は、契約前後に交付される書面の記載事項です(施行規則第33条)。あわせて警備計画書の見方警備員を直接雇用する場合との違いもご覧ください。

教育が足りていない会社に頼むと、発注者側に何が起きるか

教育義務(法第21条第2項)そのものに直接の罰則は置かれていませんが、行政処分の対象になります。公安委員会は、法令違反により警備業務の適正な実施が害されるおそれがあると認めるときは必要な措置を指示でき(法第48条)、著しく害されるおそれがあるとき、または指示に違反したときは、6月以内の期間を定めて営業の全部または一部の停止を命ずることができます(法第49条第1項)。指示違反は100万円以下の罰金の対象にもなります(法第57条第7号)。警察庁「令和7年における警備業の概況」によれば、令和7年中の行政処分は指示116件・営業停止12件・認定の取消し1件の計129件でした(処分事由の内訳は公表されておらず、この129件が教育義務違反によるものとは限りません)。認定業者数は1万949業者・令和7年12月末現在です。

発注者側の実害は、警備会社への制裁そのものではなくそのしわ寄せです。営業停止は全部・一部のいずれもあり、対象は当該公安委員会の管轄区域内ですが、頼んだ業務が対象に入れば警備は継続できず、代替の会社を探し直すことになります。工期の決まった工事現場、開催日が動かせないイベント、24時間止められない施設ほど再手配のダメージは大きく、繁忙期に代わりがすぐ見つかる保証もありません。教育体制の確認は、品質の話であると同時に「途中で止まらない相手を選ぶ」という継続性の話でもあります(警備業の認定番号の確認方法警備業の認定制度とは良い警備会社の見極めチェック)。なお、教育体制が整っていることは事故や被害が発生しないことを保証するものではありません。

よくある質問

Q. 新任教育の20時間は、基本教育10時間・業務別教育10時間という内訳で決まっているのですか?

A. いいえ。第38条第4項の表の一の項が定めているのは合計の下限で、内訳は条文上定められていません。「基本10+業務別10」は研修講座の設計例として広まったものです。

Q. 検定に合格している警備員なら、もう教育は要らないのですか?

A. 場合によります。新任教育は、その合格証明書に係る種別の業務に就かせるなら1級・2級を問わず不要です(第38条第4項の柱書)。しかし現任教育で完全に免除されるのは1級の合格証明書を持ちその種別の業務に従事している場合と、指導教育責任者資格者証を持ちその区分の業務に従事している場合だけで、2級の合格者は毎年度6時間以上の業務別教育が必要です(同条第5項の表の二の項、丙生企発第23号)。

Q. 「30時間」「年16時間」と説明されました。間違いですか?

A. 2019年8月30日より前の制度の数字です。ただし法令の下限を上回る教育を自主的に行うこと自体は何の問題もありません。「うちは今も30時間やっています」という説明なら、それは古い情報ではなく上乗せです。なお教育計画書や実施記録は公安委員会の検査に備える書類で、発注者への開示義務はありません。「見せてください」ではなく「どういう様式で管理していますか」と聞くのが実務的です。

まとめ|教育の話ができる会社かどうかで、かなりの部分がわかります

警備員教育は、警備業法第21条第2項と施行規則第38条が定める法律上の義務です。現行の基本値は新任教育20時間以上、現任教育は毎年度10時間以上。令和元年内閣府令第24号(2019年8月30日施行)による短縮後の数字で、それ以前の新任30時間・年16時間とは別の制度です。とくに現任教育の完全免除は1級の検定合格者と指導教育責任者に限られる点は誤解されがちです。

発注者にとって重要なのは時間数の暗記ではありません。指導教育責任者は頼む区分で選任されているか/今年度の教育計画書はいつ作られたか/実施記録は残っているか/警備員名簿にどんな項目を管理しているか/新人が現場に立つまでの流れを説明できるか/再委託先の教育まで見ているか——この6つを聞いてみることです。法令が記録を残すことまで義務づけている以上、やっている会社は必ず答えられます。複数社に見積を依頼するときは、金額の比較に加えてこの質問をそろえて投げてみてください(警備の相見積もりの取り方)。お近くの警備会社は、エリアと業務区分から探せます。


【出典・参考】
警備業法(昭和47年法律第117号)|e-Gov法令検索(第3条・第14条・第21条・第22条・第48条・第49条・第57条)
警備業法施行規則(昭和58年総理府令第1号)|e-Gov法令検索(第33条・第38条・第39条・第66条)
警察庁「警備業法施行規則の一部を改正する内閣府令等の施行について(通達)」(令和元年8月30日付け丙生企発第22号)/「警備業法等の解釈運用基準について(通達)」(同日付け丙生企発第23号)(別添2-1・2-2の教育時間数 新旧比較を含む/全国警備業協会サイト掲載)
警視庁「警備員に対する教育時間」
神奈川県警察「警備員教育における教育の時間数、頻度及び実施可能な講義の方法等の改正について」
警察庁「令和7年における警備業の概況」(認定業者数・行政処分の実施状況)
※法令・通達・統計は2026年7月時点でe-Gov法令検索および警察庁公表資料と照合しています。本記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。