イベントの警備を依頼するとき、見積書や提案書に「雑踏警備業務検定 1級」「2級検定合格警備員○名」といった記載を見かけることがあります。しかし、この1級と2級が何を意味するのか、そして自分の現場にどちらが必要なのかを説明できる発注担当者は多くありません。
「雑踏警備業務検定」の解説記事は、その大半が資格を取りたい警備員向けです。合格率や勉強時間の話は、依頼する側にはあまり役に立ちません。この記事では、全国の警備会社を地域と業務内容で探せる「近くの警備会社ナビ」編集部が、発注する側の目線で雑踏警備業務検定を整理しました。法令の記述はすべてe-Gov法令検索の現行条文と照合し、統計は警察庁の公表資料から直接引用しています。
雑踏警備そのものの定義、交通誘導警備との違い、配置義務の全体像については雑踏警備とは|配置基準と交通誘導との違いを発注者向けに解説で扱っています。本記事は検定制度そのものに絞って掘り下げます。
この記事でわかること
- 雑踏警備業務検定の法律上の位置づけ(何のための資格か)
- 1級と2級は何が違うのか——試験科目・現場での役割・受検資格【比較表つき】
- 資格を得る2つのルート(公安委員会の検定/登録講習機関の講習会)
- 「検定に合格した」と「合格証明書を持っている」は別物という重要な区別
- 現場での合格証明書の携帯義務と標章、発注者の確認【チェックリスト】
- 警察庁統計で見る有資格者の実数
雑踏警備業務検定とは|法律上の位置づけ
雑踏警備業務検定は、民間資格ではなく都道府県公安委員会が行う国家資格です。根拠は警備業法第23条にあります。
公安委員会は、警備業務の実施の適正を図るため、その種別に応じ、警備員又は警備員になろうとする者について、その知識及び能力に関する検定を行う。
2 前項の検定は、警備員又は警備員になろうとする者が、その種別の警備業務に関する知識及び能力を有するかどうかを学科試験及び実技試験により判定することによつて行う。
(中略)
4 公安委員会は、第一項の検定に合格した者に対し、警備業務の種別ごとに合格証明書を交付する。
そして、この検定は警備業務の「種別」ごとに行われます。雑踏警備業務は、警備員等の検定等に関する規則(以下「検定規則」)第1条第3号で「人の雑踏する場所における負傷等の事故の発生を警戒し、防止する業務(雑踏の整理に係るものに限る。)」と定義された種別です。
検定が置かれている理由は、警備業法第18条の趣旨に表れています。同条は、専門的知識・能力を要し、事故が起きれば不特定または多数の人の生命・身体・財産に危険が生じるおそれがある業務について、合格証明書の交付を受けた警備員を配置するよう警備業者に義務づけています。雑踏警備業務は、その対象として国家公安委員会規則で指定されている業務のひとつです。
つまり雑踏警備業務検定は、「人が密集する場所で事故を防ぐ専門性」を国が確認する仕組みであり、発注者にとっては依頼先の体制が適法かどうかを見分ける手がかりになります。
1級と2級は何が違うのか【比較表】
検定規則第4条は、検定を種別ごとに1級・2級に区分して行うと定めています。では、その中身はどう違うのでしょうか。
ここで多くの解説記事は「1級のほうが難しい」で済ませますが、実際の違いは検定規則の別表を読み比べると明確に分かります。1級の試験科目は別表第一、2級は別表第二に定められており、雑踏警備業務の欄を突き合わせると、次の差があります。
| 比較項目 | 2級検定 | 1級検定 |
|---|---|---|
| 学科試験の科目 | ①警備業務に関する基本的な事項 ②法令に関すること ③雑踏の整理に関すること ④事故発生時の応急の措置に関すること |
左記4科目に加えて ⑤雑踏警備業務の管理に関すること |
| 実技試験の科目 | ①雑踏の整理 ②応急の措置 |
左記に加えて ③雑踏警備業務の管理 |
| 求められる水準(条文の表現) | 「専門的な知識/能力を有すること」 | 「高度に専門的な知識/能力を有すること」 |
| 「管理」科目の中身 | — | 実施場所の広さ・周囲の道路及び交通の状況その他の事情に関する事前調査、能率的かつ安全な実施に必要な業務の管理 |
| 受検資格 | 条文上、級による限定なし | 同種別の2級の合格証明書の交付後、当該種別の警備業務に従事した期間が1年以上(または公安委員会が同等以上と認める者) |
| 配置義務での位置づけ | 場所ごと(複数区域なら区域ごと)に1級または2級を1人以上 | 場所が2以上の区域に区分される場合、その場所ごとに1級を1人 |
根拠:警備員等の検定等に関する規則 別表第一・別表第二(雑踏警備業務の項)、第2条、第4条、第8条(e-Gov法令検索)/表は編集部作成。科目名は編集部で略記しており、正式名称は別表第一・別表第二をご参照ください
差は「管理」——1級だけに課される科目
表のとおり、1級だけに「雑踏警備業務の管理に関すること」という科目が加わります。条文では次のように書かれています。
1 雑踏警備業務を実施する場所の広さ、その周囲における道路及び交通の状況その他の事情に関する事前調査を的確に行うため必要な事項に関する高度に専門的な知識を有すること。
2 その他雑踏警備業務の能率的かつ安全な実施に必要な業務の管理の方法に関する高度に専門的な知識を有すること。
つまり2級が「現場で雑踏を整理し、事故が起きたときに応急の措置をとる」能力を問うのに対し、1級はそこに「事前調査をして計画を立て、現場全体を管理する」能力が上乗せされているわけです。
この違いは、現場での役割分担にそのまま対応します。神奈川県警察が公表している雑踏警備配置基準の質疑応答集では、1級について「複数区域全体の統括」を担い、当日は担当区域全体の状況把握・分析、各区域の2級検定合格警備員への情報提供、動線変更や配置転換の指示などを行うことが想定されると説明されています。一方2級は「いわゆるプレイングマネージャーとして、担当区域において、自ら適切な警備業務を実施すること及び他の警備員に対して適切な指導を行う」役割とされています。
発注者にとっての意味はこうです。会場をエリア分けして運用する計画なら、必要なのは単に「有資格者の頭数」ではなく、会場全体を俯瞰して指示を出せる1級の存在です。逆に単一区域で完結する小規模な催しであれば、条文上1級の配置までは求められません。
1級は「いきなり受けられない」
もうひとつ実務上重要なのが受検資格です。
一級の検定を受けることができる者は、次のとおりとする。
一 検定を受けようとする警備業務の種別について二級の検定に係る合格証明書の交付を受けている者であって、当該合格証明書の交付を受けた後、当該種別の警備業務に従事した期間が一年以上であるもの
二 公安委員会が前号に掲げる者と同等以上の知識及び能力を有すると認める者
1級は、2級の合格証明書を得たうえで1年以上その種別の実務に就いた人でなければ受けられません(公安委員会が同等以上と認める場合を除く)。したがって1級検定合格警備員は、制度上原則として一定の実務経験を経ていることになります。「1級がいるかどうか」は、その会社の雑踏警備の経験蓄積を映す指標にもなります。
資格を得る2つのルート
提案書で「特別講習を修了した警備員」と書かれていて戸惑ったことはないでしょうか。雑踏警備業務検定の資格を得るルートは2つあり、どちらを通っても得られる資格は同じです。
| ルート | 実施主体 | 内容 |
|---|---|---|
| ①検定(直接検定) | 都道府県公安委員会 | 学科試験+実技試験を受検。学科試験は択一式で合格基準は90%以上。実技試験は減点式採点で合格基準は90%以上。学科試験を実技試験の前に行い、学科に合格しなかった者には実技試験を行わない(検定規則第6条) |
| ②講習会(特別講習) | 国家公安委員会の登録を受けた者(登録講習機関) | 講習(学科・実技)と修了考査で構成。課程を修了すると学科試験・実技試験の全部が免除され、検定に合格した者とみなされる(検定規則第5条) |
②のルートを定めているのが警備業法第23条第3項です。同項は、国家公安委員会の登録を受けた者が行う講習会の課程を修了した者について、学科試験または実技試験の全部または一部を免除できるとしており、これを受けて検定規則第5条が「全部を免除する」「検定に合格した者とみなす」と定めています。
なお、講習会ルートでも1級の講習を受けるには2級の合格証明書の交付後1年以上の実務経験が必要とされており(一般社団法人警備員特別講習事業センター)、1級のハードルは実質的に変わりません。
【重要】「検定合格」と「合格証明書」は別物です
ここが、発注者が最も誤解しやすいポイントです。
警備業法第18条が配置を義務づけているのは、「第二十三条第四項の合格証明書の交付を受けている警備員」です。「検定に合格した警備員」ではありません。検定規則第2条も、配置すべき人員を「合格証明書の交付を受けている警備員」と明記しています。
検定に合格すると、まず成績証明書が交付されます(検定規則第11条)。講習会ルートなら講習会修了証明書が交付されます(同第17条第13号)。合格証明書は、これらを添えて改めて公安委員会に申請して交付を受けるものです(同第14条)。しかもこの添付書類には期限があります。
二 第十一条の成績証明書又は第十七条第十三号の講習会修了証明書(当該成績証明書又は当該講習会修了証明書の交付の日から起算して一年を経過していないものに限る。)
したがって、「試験には受かったが、合格証明書の交付をまだ受けていない」警備員は、配置基準上の検定合格警備員として数えられません。提案書に「有資格者」とだけ書かれている場合、それが合格証明書の交付を受けた人なのかを確認する価値があります。
現場で確認できる|合格証明書の携帯義務と標章
発注者にとってありがたいのは、この資格が当日の現場でも確認できるように制度設計されている点です。
警備業者は、前条の表の上欄に掲げる警備業務を行うときは、検定合格警備員が当該警備業務に従事している間は、当該検定合格警備員に、当該警備業務の種別に係る合格証明書を携帯させ、かつ、関係人の請求があるときは、これを提示させなければならない。
雑踏警備業務に従事している間、検定合格警備員は合格証明書を携帯していなければならず、関係人から請求があれば提示させることが警備業者に義務づけられています。
さらに検定規則第16条は、1級・2級の検定合格警備員が、交付を受けている合格証明書に係る種別の業務に従事している間、所定の様式の標章を用いることができると定めています。制服に付けられている検定合格警備員の標章は、この規定に基づくものです。
当日、必要以上に業務を止めてまで確認する必要はありませんが、事前打合せの段階で「当日は誰が検定合格警備員として、どの区域を担当するのか」を書面で共有してもらうのが現実的です。
発注者のための確認チェックリスト
資格に関して、依頼のどの段階で何を確認すればよいかを整理しました。
■ 見積依頼の段階
- そもそも公安委員会の認定を受けた警備業者か(認定番号の確認方法はこちら)
- 認定を受けている警備業務の区分に2号警備(雑踏)が含まれているか
- 雑踏警備業務の検定合格警備員が在籍しているか(施設警備業務検定や交通誘導の検定とは別の種別です)
■ 計画を詰める段階
- 会場をいくつの区域に分ける計画か(区域は、主催者等の委託者と警備業者との契約において定められるものとされています)
- 複数区域になるなら、1級検定合格警備員を配置できるか
- 誰がどの区域の検定合格警備員として立つのかが、警備計画書上で特定されているか
- その有資格者は合格証明書の交付を受けているか(成績証明書・講習会修了証明書の段階ではないか)
■ 直前・当日
- 体制変更があった場合、有資格者の差し替えが計画どおり行われているか
- 当日の指揮系統(1級がどこで全体を見るか、各区域の2級とどう連絡を取るか)
誤解しないでください:義務は「最低1人以上」です。検定規則第2条が求めているのは、雑踏警備業務を行う場所ごと(2以上の区域に区分される場合は区域ごと)に1級または2級を1人以上配置することであり、現場に立つ警備員全員が有資格者である必要はありません。「有資格者の比率が高い=良い見積」ではなく、まず法令上の最低ラインを満たしているかを確認し、そのうえで実績や計画の質を比べるのが順序です。人数の考え方についてはイベント警備の料金|1日あたりの費用と見積もりの見方もあわせてご覧ください。
データで見る|雑踏警備業務検定の有資格者はどれくらいいるのか
「有資格者がいる会社を探せばいい」と言われても、そもそもどれくらい存在するのでしょうか。警察庁の公表統計から実数を確認します。
| 種別 | 1級検定 保有者数 | 2級検定 保有者数 |
|---|---|---|
| 雑踏警備業務 | 6,901人 | 30,886人 |
| 交通誘導警備業務 | 5,894人 | 85,197人 |
| 施設警備業務 | 11,878人 | 51,761人 |
| 全種別 計 | 32,614人 | 199,898人 |
出典:警察庁「令和6年における警備業の概況」「警備員の検定合格証明書の保有状況(令和6年12月末現在)」。同一人が複数の級・種別を保有している場合はそれぞれに計上(延べ数)
級別・種別を問わず何らかの検定合格証明書を保有している警備員は17万1,424人で、警備員数58万7,848人に対しておよそ29%です(いずれも令和6年12月末現在、同資料)。
ここから読み取れることが2つあります。
1つめは、雑踏警備業務の有資格者は交通誘導に比べて母数が小さいこと。2級で見ると交通誘導の85,197人に対し、雑踏は30,886人と3分の1程度です。令和6年中の合格証明書の交付件数で見ても、交通誘導2級が6,572件なのに対し、雑踏2級は1,812件、雑踏1級は292件にとどまります(同資料「検定合格証明書の交付状況」)。
2つめは、1級はとりわけ希少だということ。同じ統計では、雑踏警備業務を行っている警備業者は5,137業者(4条業者総数10,811業者の47.5%)とされています。雑踏1級の保有者6,901人をこの業者数で単純に割ると1社あたり約1.3人にすぎません(2級は約6.0人)。ただしこの計算は、保有者が雑踏警備業務を行う業者に在籍しているとは限らないこと、および1級の受検には2級の合格証明書が前提となるため1級保有者が2級保有者数にも重複して含まれることに留意が必要で、あくまで規模感の目安です。そのうえで、実際には保有者が均等に分布しているわけではないため、1級を必要とする複数区域の案件では、対応できる会社が限られる地域もあると考えておくのが現実的です。
大規模なイベントほど、早めに相談先を確保しておくことが重要な理由がここにあります。
よくある質問
Q. 交通誘導警備業務の検定を持っている警備員を、雑踏警備に充てられますか?
A. 配置基準を満たす人員としては数えられません。警備業法第18条・検定規則第2条は「その種別ごと」に合格証明書の交付を受けている警備員を配置するよう求めており、雑踏警備業務には雑踏警備業務の検定が必要です。ただし、1人の警備員が複数の種別の合格証明書を保有していること自体は可能で、雑踏警備業務と交通誘導警備業務の両方を行う部隊で、1人が両方の検定合格警備員を兼ねても差し支えないとされています(神奈川県警察「雑踏警備配置基準質疑応答集」)。
Q. 検定合格警備員が固定ポストに立っていても問題ないのですか?
A. 2級については、担当区域内の固定ポストでの勤務は差し支えないとされています。1級については固定ポストでの勤務が禁止されているわけではないものの、1級として求められる統括の役割を果たせる形で配置されるべきとされています(同質疑応答集)。会場全体を見る人が動けない配置になっていないか、計画段階で確認するとよいでしょう。
Q. 何人規模のイベントから検定合格警備員が必要になりますか?
A. 規模による除外は設けられていません。雑踏警備業務を行うのであれば、規模にかかわらず検定合格警備員の配置が必要とされています(和歌山県警察「雑踏警備業務の配置基準に関するQ&A」)。一方で、区域の分け方に機械的に当てはめられる数値基準は示されておらず、個々の現場ごとに判断されます。
Q. 合格率や難易度は、業者選びの参考になりますか?
A. 検定規則第6条は、学科試験・実技試験とも合格基準を90%以上と定めており、決して緩い試験ではありません。ただしインターネット上に出回っている合格率の数値は出所がまちまちで、そのまま業者の実力比較には使えません。発注者が見るべきは合格率ではなく、自分の現場に必要な級の有資格者を、必要な時間帯に配置できるかという実務的な点です。
まとめ|検定は「体制の適法性」を確かめるものさし
雑踏警備業務検定は、警備業法第23条に基づき公安委員会が行う国家資格で、種別ごとに1級・2級に区分されています(検定規則第4条)。発注者として押さえるべきは次の4点です。
- 1級と2級の差は「管理」——1級だけに事前調査と業務管理の科目が課され、複数区域を統括する役割を担う(検定規則別表第一・第二)
- 1級は2級合格証明書の交付後1年以上の実務経験が前提——制度上、原則として経験を積んだ人材である(同第8条。公安委員会が同等以上と認める場合を除く)
- 配置義務がかかるのは「合格証明書の交付を受けている警備員」——試験に受かっただけの段階とは区別される(警備業法第18条)
- 義務は最低1人以上——全員が有資格者である必要はなく、まず最低ラインを満たしているかを確認する
そのうえで、会場を複数区域に分ける計画なのか、1級を配置できる会社なのかを早めに確認しておくと、当日までの段取りが安定します。雑踏警備そのものの全体像は雑踏警備とは|配置基準と交通誘導との違いを発注者向けに解説、警備業務の区分全体は警備業務の種類まるわかり|1号〜4号を発注者向けに完全解説で解説しています。複数社を比べる進め方は警備の相見積もりの取り方もご参照ください。
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【出典・参考】
・警備業法(昭和47年法律第117号)|e-Gov法令検索(第18条・第23条)
・警備員等の検定等に関する規則(平成17年国家公安委員会規則第20号)|e-Gov法令検索(第1条第3号、第2条、第3条、第4条、第5条、第6条、第8条、第11条、第14条、第16条、第17条、別表第一・別表第二)
・警察庁「令和6年における警備業の概況」(検定合格証明書の交付状況・保有状況、警備業務の区分ごとの警備業者の状況、警備員数)
・神奈川県警察「雑踏警備配置基準質疑応答集」(1級・2級の役割、区域の定め方、種別の兼任)
・和歌山県警察「雑踏警備業務の配置基準に関するQ&A」
・一般社団法人 警備員特別講習事業センター(特別講習の区分・受講資格)
※法令は2026年7月時点でe-Gov法令検索の現行条文と照合しています。統計は令和6年12月末現在(交付件数は令和6年中)の値です。本記事は一般的な情報提供であり、個別の案件に関する法的助言ではありません。実際の配置や手続については、所轄警察署および警備会社にご確認ください。
