「店舗の売上金を毎日金融機関へ運ぶのが不安」「催事で扱う高額商品や集金を安全に運搬したい」——小売店・飲食チェーン・イベント主催者・美術品を扱う施設の担当者がこう考えたとき、依頼先になるのが現金輸送・貴重品運搬の警備です。ところが料金を調べても「会社によって異なります」「お問い合わせください」ばかりで、何が料金を決めるのか・いくらが目安なのか・どう頼めばいいのかがはっきりしません。

その分かりにくさには理由があります。現金輸送・貴重品運搬には交通誘導警備のような公的な単価統計が存在しません。運ぶ物・金額・ルート・頻度・車両数で費用が大きく変わるため、一律の相場を示しにくいのです。それでも「何で決まるのか」を知っていれば、見積の妥当性は十分に判断できます。

この記事では、全国の警備会社を地域と業務内容で探せる「近くの警備会社ナビ」編集部が、依頼する側の目線で現金輸送・貴重品運搬の費用と依頼の流れを整理しました。法令の記述はe-Gov法令検索の現行条文と照合し、条番号を明記しています。とくに検定合格警備員の配置義務が「現金に係るもの」に限られるという、他の解説記事があいまいにしがちな法的な線引きを正確にお伝えします。

この記事でわかること

  • 現金輸送・貴重品運搬は3号警備(貴重品運搬警備業務)であること、その法律上の位置づけ(警備業法第2条第1項第3号)
  • 検定合格警備員の配置義務は「現金に係るもの」に限られる法的な線引き(警備業法第18条・検定規則第2条)【条文表】
  • 依頼できる警備の形(定期便・スポット・添乗・伴走・現金輸送車)と使い分け【比較表】
  • 費用相場の考え方と、料金を左右する6つの要因【料金要因表】
  • 受託者賠償責任保険の有無を確認する重要性
  • 失敗しないための依頼前チェックリストと、問い合わせから警備開始までの流れ

現金輸送・貴重品運搬とは|3号警備(貴重品運搬警備業務)

現金や貴重品を運ぶ際の警備は、警備業法が定める3号警備(貴重品運搬警備業務)に当たります。警備業法第2条第1項は警備業務を4つに区分しており、第3号は次のように定めています(出典:警備業法第2条(e-Gov法令検索))。

第三号 運搬中の現金、貴金属、美術品等に係る盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務

つまり、運搬中の現金・貴金属・美術品などを盗難や強奪といった事故から守るのが3号警備です。「警備業務対象施設」を守る1号(施設警備)、雑踏・交通誘導の2号、身辺警備の4号とは別の区分で、契約書や見積書では「3号警備業務(貴重品運搬警備業務)」として扱われます。3号警備全体の解説は3号警備とは|貴重品運搬警備の仕事内容と依頼できることもあわせてご覧ください。

「警備員等の検定等に関する規則」第1条は、この業務をさらに具体的に、「運搬中の現金、貴金属、有価証券等の貴重品に係る盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務」と定義しています(出典:警備員等の検定等に関する規則第1条(e-Gov法令検索))。売上金の入金、両替金の配送、貴金属・宝石・美術品の搬送、有価証券や重要書類の運搬などが、実務上の代表例です。

なお3号警備には、もう一つ核燃料物質等危険物運搬警備業務という区分もありますが、これは原子力関連の特殊物件を対象とするもので、一般の店舗・イベント・企業が依頼する場面はまずありません。本記事は現金・貴重品の運搬(貴重品運搬警備業務)を前提に解説します。

【重要】検定合格警備員の配置義務は「現金に係るもの」に限る

発注者が誤解しやすいのが、「貴重品を運ぶなら必ず有資格者が付く」という思い込みです。実際の法律の線引きは、もう少し限定的です。

警備業法第18条は、一定の専門性が必要で、事故が起きれば不特定または多数の人の生命・身体・財産に危険が生じるおそれのある「種別」の警備業務については、その種別ごとに検定の合格証明書を受けた警備員(検定合格警備員)に実施させなければならないと定めています(出典:警備業法第18条(e-Gov法令検索))。その具体的な実施基準を定めるのが「警備員等の検定等に関する規則」第2条の表で、貴重品運搬警備業務については八の項に次のように定められています。

種別(検定規則第2条・八の項) 配置する警備員 配置する人数
貴重品運搬警備業務(現金に係るものに限る。) 貴重品運搬警備業務に係る一級検定合格警備員又は二級検定合格警備員 現金を運搬する車両ごとに、一人以上

ここで重要なのは、条文が「現金に係るものに限る」とわざわざ限定している点です。つまり法律が「車両ごとに1級または2級の検定合格警備員を1人以上」と義務づけているのは、現金を運搬する場合です。現金を伴わない貴金属・美術品・有価証券だけの運搬には、この車両ごとの配置義務は直接はかかりません(出典:警備員等の検定等に関する規則第2条(e-Gov法令検索))。

この線引きは、発注者にとって次の実務的な意味を持ちます。

  • 現金を運ぶなら、有資格者の配置は法的な要件です。見積が極端に安い場合、車両ごとの検定合格警備員の配置を満たしているかを確認してください。
  • 「車両ごとに1人以上」であって「同乗者全員が有資格」ではありません。2〜4名の体制でも、車両に検定合格警備員が1人いれば配置基準は満たされます。全員分の資格手当を上乗せするような見積には根拠を確認しましょう。
  • 現金以外の貴重品のみの運搬では車両ごとの配置義務は直接かかりませんが、安全のため検定資格者を同乗させる会社は多くあります。資格者が付くかどうかは会社の体制・契約内容によります。

検定資格者は、警備員新人教育などを経たうえで、公安委員会の検定または国家公安委員会の登録講習機関の講習で1級・2級の資格を取得します(1級は原則として2級合格後の一定の実務経験を経て取得します。公安委員会が同等以上と認める場合を除く)。資格者の在籍状況は、その会社の3号警備の体制を見る一つの目安になります。

依頼できる警備の形|定期便・スポット・添乗・伴走【比較表】

現金輸送・貴重品運搬の依頼形態は、大きく「継続的な定期便」と「一時的なスポット」に分かれます。さらに、運搬車両を誰が用意するかで「添乗」と「伴走」に分かれます。

依頼の形 内容 向くケース
定期便 決まった曜日・時間に、決まったルートで継続的に運搬(月額・回数契約が中心) 店舗の売上金の毎日の入金、両替金の定期配送
スポット 必要なときだけ1回単位で依頼 イベント・催事の売上金回収、高額商品・美術品の一時的な搬送
添乗(同行)警備 発注者が用意した車両に警備員が同乗して警戒する 自社の車で運ぶが警備だけ依頼したい
伴走警備 警備会社の車両が発注者の車両を警備しながら並走する 運搬車両と警備を分けたい、複数台での運搬

現金の運搬では、防護性能を高めた現金輸送車(専用車両)が使われることが一般的です。体制は運搬物・金額・ルートに応じておおむね2〜4名で組まれることが多く、積み降ろしの動線が長い・立ち寄り先が多いといった条件では人数が増えます。これらは各警備会社の一般的な運用であり、必要な体制は現場条件によって変わります。

費用相場の考え方|公的な単価統計は無い

結論から言うと、現金輸送・貴重品運搬に、国が示す公的な料金・単価統計はありません。交通誘導警備のように公共工事設計労務単価を手がかりにできる分野とは異なり、3号警備の料金は各社が運行条件ごとに個別に算定します。そのため「1回いくら」と一律に断定できる相場は存在しません。

目安の水準としては、警備員が貴重品に同行する添乗(同行)型で1回あたり数万円程度から、といった料金例を自社サイトで示す警備会社もありますが、これはあくまで一例です。運搬距離・頻度・車両数・時間帯で大きく変動するため、金額そのものより「何で決まるか」を押さえ、同じ条件で複数社の見積を取って自分の地域・条件の水準をつかむのが確実です。相場観の全体像は警備の費用相場|業務区分別の料金の考え方もあわせてご覧ください。

料金を左右する6つの要因【料金要因表】

見積を比較するとき、次の要因が同じ条件になっているかを確認してください。条件がそろっていない見積を金額だけで比べても意味がありません。

要因 料金への影響 発注者が伝えるべき情報
運行ルート・距離・所要時間 長い・立ち寄り先が多いほど高い 出発地・経由地・到着地、想定所要時間
頻度(定期便/スポット) 継続の定期便は1回あたりが下がりやすい 毎日か週数回か、単発か
運搬物の種類・金額 現金は配置義務(後述)と補償の観点で条件が変わる 現金か貴金属・美術品か、想定金額・評価額
車両数・警備員数 台数・人数に比例 運搬車の台数、希望する体制
時間帯・曜日 深夜・早朝・休日は割増になりやすい 運搬の時間帯、土日祝を含むか
補償(受託賠償)の範囲 補償上限が高いほど費用に反映されやすい 必要な補償額、対象物の評価額

時間帯について補足すると、深夜帯(原則として22時から翌5時まで。労働基準法第37条第4項により25%以上の割増賃金が必要な時間帯)を含む運搬は単価が上がりやすくなります(出典:労働基準法第37条(e-Gov法令検索))。深夜の売上金回収などを依頼する場合は、割増を見込んでおきましょう。見積内訳の読み解き方は警備の相見積もりの取り方|比較のコツと注意点で解説しています。

保険(受託者賠償責任保険)の確認が重要

現金輸送・貴重品運搬で見落としてはならないのが補償(保険)です。万が一、運搬中の盗難・事故で預かった現金や貴重品に損害が生じたとき、その損害をどこまで補償できるかは会社によって異なります。多くの警備会社は、運搬を受託した財物に対する受託者賠償責任保険などに加入していますが、加入の有無・補償の対象・1事故あたりの上限額は必ず確認しましょう。

とくに高額な現金や評価額の大きい美術品・貴金属を運ぶ場合、補償上限が運搬物の価値を下回っていると、事故時に損害を十分にカバーできません。見積を取る段階で、「補償上限はいくらか」「対象は何か(現金・有価証券・美術品など)」「免責の条件はあるか」を書面で確認しておくことが、トラブル防止につながります。

あわせて理解しておきたいのは、警備員には警察官のような特別な権限はないことです。警備業法第15条は、警備業者と警備員が「この法律により特別に権限を与えられているものでない」ことに留意すべきと定めています(出典:警備業法第15条(e-Gov法令検索))。3号警備の価値は、犯行を思いとどまらせる抑止、安全な運搬手順、そして万一への補償の組み合わせにあります。武力で強奪を制圧することを期待するものではなく、被害ゼロを保証するものでもない点は押さえておきましょう。

失敗しないための依頼前チェックリスト

見積を依頼する前に、次の項目を確認しておくと、比較と会社選びがスムーズになります。

  • 都道府県公安委員会の認定を受けた警備業者か(認定証番号を確認。警備業法第4条)
  • 現金を運ぶ場合、車両ごとに1級または2級の貴重品運搬警備業務検定合格警備員を配置する体制があるか
  • 受託者賠償責任保険に加入しているか、補償の対象と1事故あたりの上限額
  • 依頼形態(定期便かスポットか)と、運行ルート・時間帯・車両数が見積条件に明記されているか
  • 万一の事故・遅延時の連絡体制と対応手順が決まっているか
  • 契約書面(概要書面・契約書面)が交付されるか(警備業法第19条)
  • 見積の内訳(人件費・車両費・保険・割増)が読み取れるか

認定の確認方法は警備業の認定番号の確認方法で詳しく解説しています。認定を受けた業者は、認定を示す標識を主たる営業所の見やすい場所に掲示するほか、原則としてウェブサイト等で公衆の閲覧に供することが義務づけられています(警備業法第6条第1項)。会社のサイトや見積書・契約書面に記載された認定証番号で確認しましょう。

依頼の流れ|問い合わせから警備開始まで

  1. 問い合わせ・ヒアリング:運搬物の種類・金額(評価額)、出発地・経由地・到着地、頻度、時間帯、希望する体制を伝えます。情報が具体的なほど、正確な見積が出ます。
  2. 下見・提案:会社によってはルートや積み降ろし場所を事前調査し、車両数・人数・運搬手順・補償内容を提案します。
  3. 見積・比較:運行ルート・頻度・車両数・時間帯・補償を同一条件にそろえ、複数社を比較します(相見積もりの取り方)。
  4. 契約:警備業法第19条により、警備会社には契約締結前の概要書面と締結後の契約書面の交付が義務づけられています。運搬範囲・体制・補償・事故時の対応が書面に明記されているか確認しましょう(書面は同条第3項により、依頼者の承諾があれば電磁的方法での提供も認められています/出典:警備業法第19条(e-Gov法令検索))。
  5. 警備開始・見直し:運用開始後は、運搬記録や連絡体制に問題がないかを定期的に見直します。

よくある質問

Q. 現金輸送・貴重品運搬は何号警備ですか?

A. 3号警備(貴重品運搬警備業務)です。警備業法第2条第1項第3号の「運搬中の現金、貴金属、美術品等に係る盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務」に当たります。1号(施設警備)・2号(雑踏・交通誘導)・4号(身辺警備)とは別の区分で、契約・見積上は「3号警備業務」として扱われます。

Q. 貴重品運搬には必ず検定資格者が付きますか?

A. 法律で車両ごとの配置が義務づけられているのは「現金に係るもの」です。現金を運ぶ場合は、警備業法第18条と検定規則第2条八の項により、現金を運搬する車両ごとに1級または2級の貴重品運搬警備業務検定合格警備員を1人以上配置しなければなりません。現金を伴わない貴金属・美術品などのみの運搬には、この車両ごとの配置義務は直接かかりませんが、安全のため資格者を同乗させる会社も多くあります。

Q. 費用の相場はいくらですか?

A. 現金輸送・貴重品運搬には公的な料金統計がなく、一律の相場を断定することはできません。料金は運行ルート・頻度・運搬物・車両数・時間帯・補償の範囲で決まります。同行型で1回あたり数万円程度からといった料金例を示す会社もありますが、条件で大きく変わるため、同じ条件で複数社から見積を取って比較するのが確実です。

Q. 定期便とスポットはどう違いますか?

A. 定期便は決まった曜日・時間・ルートで継続的に運搬する契約(月額・回数契約が中心)で、店舗の売上金の毎日の入金などに向きます。スポットは必要なときだけ1回単位で依頼する形で、イベントの売上金回収や高額商品の一時的な搬送などに向きます。継続利用なら定期便のほうが1回あたりの費用は下がりやすい傾向です。

Q. 保険(補償)はどこまで確認すべきですか?

A. 運搬中の現金・貴重品に損害が生じたときの補償として、警備会社が受託者賠償責任保険などに加入しているか、対象(現金・有価証券・美術品など)と1事故あたりの上限額、免責条件を書面で確認してください。運ぶものの評価額が補償上限を上回っていないかも重要な確認点です。

Q. どこの警備会社に頼めばいいですか?

A. まずは都道府県公安委員会の認定を受けた業者であること(警備業法第4条)を前提に、3号警備(貴重品運搬)の実績と、現金運搬時の検定合格警備員の配置体制、補償内容を確認しましょう。地域の警備会社は、当サイトのエリアや業務区分から探せます。

まとめ|「何で決まるか」を押さえて複数社で比較する

現金輸送・貴重品運搬は、警備業法第2条第1項第3号の3号警備(貴重品運搬警備業務)です。公的な料金統計がないため一律の相場はありませんが、料金は運行ルート・頻度・運搬物・車両数・時間帯・補償で決まります。とくに現金を運ぶ場合は、警備業法第18条と検定規則第2条八の項により現金を運搬する車両ごとに1級または2級の検定合格警備員を1人以上配置する義務がある一方、その義務は「現金に係るもの」に限られる、という線引きを押さえておくと、見積の妥当性を正しく判断できます。受託者賠償責任保険の有無と上限を確認し、同じ条件で複数社の見積を比較して決めましょう。


【出典・参考】
警備業法(昭和47年法律第117号)|e-Gov法令検索(第2条・第4条・第6条・第15条・第18条・第19条)
警備員等の検定等に関する規則(平成17年国家公安委員会規則第20号)|e-Gov法令検索(第1条・第2条八の項)
労働基準法(昭和22年法律第49号)|e-Gov法令検索(第37条第4項・深夜割増)
※法令は2026年7月時点でe-Gov法令検索の現行条文と照合しています。本文中の費用・体制に関する記述はいずれも目安であり、実際は個別の見積・契約によります。本記事は一般的な情報提供であり、個別案件に関する法的助言ではありません。