花火大会の開催費用の中で、主催者の大きな悩みの種になっているのが警備費です。警備費の高騰などを理由に花火の打ち上げをやめたり、祭りの形を変えたりした例も報じられています(後述)。「来年も続けられるのか」を考えるには、警備費がいくらかかるのか・どこまで削れてどこからは削れないのかを知っておく必要があります。

この記事では、全国の警備会社を地域と業務内容で探せる「近くの警備会社ナビ」編集部が、花火大会の警備費用を主催者(実行委員会・自治体・観光協会・商工会など)の目線で整理しました。単価は公的な労務単価を根拠に「目安」として示し、法令はe-Gov法令検索の現行条文と照合しています。

この記事でわかること

  • 花火大会の警備費の内訳(雑踏警備+交通誘導警備+機材・本部)
  • 警備員1人あたり単価の目安と公的根拠(公共工事設計労務単価)
  • 規模別のモデル試算【一覧表】と実際の大会の警備費の実例
  • 法律で決まっていて削れない部分(警備業法第18条・検定規則第2条)
  • 警備費高騰の背景と、安全を落とさずに負担を抑える6つの工夫

花火大会の警備費はなぜ大きい|費用の中身を分解する

花火大会の警備は、性質の異なる2つの警備業務の組み合わせで成り立っています。いずれも警備業法第2条第1項第2号の2号警備業務です(出典:警備業法第2条(e-Gov法令検索))。

  • 雑踏警備:観覧エリア・最寄り駅から会場までの動線・橋や交差点などの滞留ポイントで、観客の流れを整理し事故を防ぐ業務。花火大会警備の中核です
  • 交通誘導警備:周辺道路の交通規制ポイントや臨時駐車場での車両誘導

これに、機材費(誘導灯・カラーコーン・バリケード・トランシーバー・拡声器等)、本部・管理体制の費用(警備本部の責任者、警察・消防との連絡要員)、夜間割増(22時〜翌5時にかかる場合、労働基準法第37条第4項により25%以上の割増賃金が必要な時間帯)が加わります。

花火大会の警備費が他のイベントより膨らみやすいのは、①夜間開催で視界が悪く、終了が22時を過ぎれば深夜割増もかかる、②短時間に来場者が集中して入り・一斉に帰る(特に帰路のピークに危険が高まる)、③会場が河川敷など広く、駅・駐車場まで動線が長い——という構造要因のためです。

警備員1人あたり単価の目安と公的根拠

警備員の人件費水準の公的な参考値として、国土交通省の公共工事設計労務単価(令和8年3月適用・全国加重平均)では、交通誘導警備員B(交通誘導警備業務の検定合格者以外)が1日8時間当たり16,749円、交通誘導警備員A(交通誘導警備業務に係る1級・2級検定合格者)が18,911円とされています。この単価は所定労働時間内8時間あたりの賃金であり、深夜・時間外の割増賃金、法定福利費(事業主負担分)、警備会社の管理費等は含まれません。したがって警備会社への支払額は1人1日あたりこれより高くなるのが通常です。なお同単価には「雑踏警備員」という職種区分がないため、ここでは水準感の参考として交通誘導の単価を用いています(出典:国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」)。

イベント警備全般の実勢の目安は1人1日あたり1.5万〜3万円程度ですが、夜間・資格者配置・機材込みとなる花火大会では、上の労務単価に必要経費が乗ることを踏まえ2万〜3万円程度を見込んでおくのが無難です(単価の構造と内訳はイベント警備の料金相場|1日あたり・規模別の目安と内訳で詳しく解説しています)。正確な金額は地域・時間帯・体制で変わるため、必ず個別の見積で確認してください。

規模別モデル試算【一覧表】|実例との突き合わせつき

「人数 × 単価」で警備費の桁感をつかむためのモデル試算です。あくまで仮定を置いた計算例であり、実際の必要人数は会場の形状・動線・警察の指導によって大きく変わります。

規模の例 警備員数の仮定 1人あたり単価の仮定 警備費の試算
小規模(来場者数千人・地域の花火) 10〜20人 2万〜3万円/人・日
(夜間・資格者配置・機材込みの想定)
約20万〜60万円
中規模(来場者1万〜3万人) 30〜60人 約60万〜180万円
大規模(来場者5万人以上) 80人〜 約160万〜数百万円

実例と突き合わせてみます。三重県津市の久居花火大会(来場者約5万5千人)では、2024年に警備員84人を配置し、警備費は約230万円と報道されています。人員を5年前の半分ほどに抑えたにもかかわらず、人件費の高騰で費用は約320万円から3割弱しか下がらなかったといいます(出典:東海テレビ「花火大会にも”存続の危機”…物価や人件費の高騰が夏の風物詩を直撃」2024年10月)。上の試算の大規模帯と整合する水準で、来場者5万人級の大会で警備費が200万円を超える例があるということです。

法律で決まっていて削れない部分|検定合格警備員の配置義務

警備費を圧縮したい主催者がまず知っておくべきなのは、雑踏警備には法律上の資格者配置義務があることです。警備業法第18条は、国家公安委員会規則で定める特定の種別の警備業務について、検定合格証明書の交付を受けた警備員に実施させることを警備業者に義務づけています。雑踏警備業務の配置基準は、警備員等の検定等に関する規則第2条の表に次のとおり定められています。

  • 雑踏警備業務を行う場所ごと(実施の適正の確保上、場所が2以上の区域に区分される場合はそれらの区域ごと)に、雑踏警備業務に係る1級または2級の検定合格警備員を1人以上配置
  • 場所が2以上の区域に区分される場合は、さらに場所ごとに1級検定合格警備員を1人配置

(出典:警備業法第18条(e-Gov法令検索)・警備員等の検定等に関する規則第2条(e-Gov法令検索))

この制度の背景にあるのが、2001年7月21日に兵庫県明石市の花火大会で発生した歩道橋事故です。会場と駅を結ぶ歩道橋に観客が密集して群集なだれが起き、11人が死亡、247人が重軽傷を負いました(出典:関西テレビ「明石歩道橋事故から21年」)。この事故を契機とした制度見直しの流れの中で雑踏警備業務検定が整備され、現在の配置義務につながっています。つまり花火大会の警備費には、過去の犠牲の上に成り立つ「法律上下げられない下限」がある——このことは、予算折衝の場でもぜひ共有してほしい前提です。

警備費高騰の背景|「去年と同じ予算」が通用しない理由

警備費の上昇は一時的な現象ではありません。主因は人件費の構造的な上昇で、公共工事設計労務単価は14年連続で引き上げられています(令和8年3月適用・全国全職種の単純平均で前年度比4.5%引き上げ。出典:前掲・国土交通省)。また、雑踏警備業務を実施している警備業者は全国5,164業者(警備業者全体の47.2%・令和7年12月末現在)と交通誘導(8,241業者・75.3%)より少なく、夏の花火シーズンには限られた資格者・隊員の取り合いになりやすい構造です(出典:警察庁「令和7年における警備業の概況」)。

岐阜県笠松町の「笠松川まつり」は、町からの補助金1,200万円では回復した人出に対応する警備費を賄えないなどとして2023年に中止に追い込まれ、翌年は費用を4分の1に抑えたイベントへのリニューアルを選びました(出典:前掲・東海テレビ)。警備費は、いまや大会の存続そのものを左右する費目になっています。

安全を落とさずに負担を抑える6つの工夫

削るべきは「安全」ではなく「警備しなければならない範囲と非効率」です。実務で検討価値のある工夫を6つ挙げます。

  1. 会場設計で警備対象を絞る:観覧エリア・立入禁止区域・動線の設計次第で必要人数は大きく変わります。「滞留が生まれない設計」への変更は人数削減に直結します。なお京都府木津川市は、2026年の市民まつりで花火の打ち上げをやめ、ドローンショーを実施するとしています(出典:木津川市「木津川市市民まつり2026」。警備費の高騰が理由と報じられています:京都新聞)。ただしこれは演目そのものの置き換えであり、会場設計の工夫とは別次元の判断です
  2. 警察署との協議を早く始める:雑踏対策の指導・道路使用許可の条件は警備計画の前提です。指導を受けてから体制を組み直すと割高な直前手配になるため、開催3か月前を目安に動きましょう(段取り全体は祭りの警備依頼ガイド|主催者の段取りと費用の目安を参照)
  3. 早期発注で「取り合い」を避ける:夏は雑踏警備の最繁忙期です。日程確定後すぐ、遅くとも2〜3か月前には警備会社へ打診を。直前手配は単価・可否の両面で不利です
  4. 財源側も手を打つ:物価や人件費の高騰を受け、有料観覧席の導入など祭りの「有料化」の動きが広がっていると報じられています(出典:前掲・東海テレビ)。「費用を削る」だけでなく「警備費を賄う収入をつくる」のも現実的な選択肢です
  5. 仕様を整理して相見積を取る:会場図・想定来場者数・過去のヒヤリハット・警察の指導内容を揃えて2〜3社に同一条件で見積依頼すると、人数の根拠と単価を比較できます(手順は警備の相見積もりの取り方)
  6. 主催者側スタッフとの役割分担を明確にする:案内・呼びかけなど補助的な業務は実行委員・ボランティアが担い、雑踏の整理という危険を伴う判断はプロに任せる——この線引きで、警備員の配置を本当に必要な箇所へ集中できます

逆に、「警備員の人数を根拠なく減らす」「無認定の業者に外注する」のは避けるべきです。他人の需要に応じて業として警備業務を行えるのは公安委員会の認定を受けた業者だけであり(警備業法第2条第1項・第2項、第4条)、無認定業者への発注は主催者側のリスクになります。なお、主催者が自らの催事で実行委員やボランティアを配置すること自体は「他人の需要に応じて行うもの」に当たらず警備業法の規制対象外ですが、雑踏の整理という危険を伴う判断まで無資格のボランティアに委ねるのは別問題です。事故が起きれば主催者の責任が厳しく問われます。

よくある質問

Q. 警備費は誰が負担するのですか?

A. 大会の主催者(実行委員会等)です。財源は自治体の補助金・協賛金・有料観覧席収入などで、警備費などの高騰を受けて協賛金を募ったり有料観覧席を設けたりする大会もあります(前掲・東海テレビ)。

Q. 警察が警備してくれるのではないのですか?

A. 警察は雑踏事故防止の観点から指導・警戒を行いますが、会場の雑踏整理や誘導体制は主催者が自らの責任で計画・手配するのが原則です。所轄警察署との事前協議で、主催者側が整えるべき警備体制の指導を受けてください。

Q. 雨天順延の場合、警備費は2倍かかりますか?

A. 契約によりますが、予備日を設ける場合は予備日分の人員確保費用が発生し、開催費用が大きく増えるため、予備日を設けない大会もあります(例:2026年7月10日の鎌倉花火大会は「予備日はありません」と案内。出典:鎌倉市「第78回鎌倉花火大会」)。順延・中止時のキャンセル料の扱いは、警備業法第19条の契約書面で必ず事前に取り決めてください。

Q. 警備員の人数はどうやって決まるのですか?

A. 一律の人数基準はありません。想定来場者数・会場の形状・動線・過去の混雑実績をもとに、警察署の指導と警備会社の現地調査を踏まえた警備計画で決まります。人数の根拠を説明できる警備会社を選ぶことが重要です。

まとめ|警備費は「削る」より「設計で最適化する」

花火大会の警備費は「人数×時間×単価」で決まり、来場者5万人級で200万円を超える例もあります。単価は公的労務単価の上昇(14年連続引き上げ)を背景に今後も上がる見込みで、雑踏警備には検定合格警備員の配置という法律上の下限もあります(警備業法第18条・検定規則第2条)。負担を抑える鍵は、人数を闇雲に削ることではなく、会場設計・早期の警察協議・早期発注・財源確保・相見積による最適化です。

雑踏警備の実績がある警備会社へ、早めに相談を始めましょう。


【出典・参考】
・警備業法(昭和47年法律第117号)|e-Gov法令検索(第2条・第4条・第18条・第19条)
・警備員等の検定等に関する規則(平成17年国家公安委員会規則第20号)|e-Gov法令検索(第2条)
・労働基準法(昭和22年法律第49号)|e-Gov法令検索(第37条第4項・深夜割増)
・国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」(交通誘導警備員A・Bの単価・14年連続引き上げ)
・警察庁「令和7年における警備業の概況」(雑踏警備・交通誘導警備の実施業者数)
・東海テレビ「花火大会にも”存続の危機”…物価や人件費の高騰が夏の風物詩を直撃」(2024年10月)(久居花火大会・笠松川まつりの警備費実例、有料化の動向)
・関西テレビ「明石歩道橋事故から21年」(事故の経緯・被害者数)
・鎌倉市「第78回鎌倉花火大会」(2026年7月10日・予備日なしの案内)
※法令・統計・単価は2026年9月時点でe-Gov法令検索および各府省の公表資料と照合しています。本文中の警備費・人数はいずれもモデル試算による目安であり、実際は個別の見積・警備計画によります。本記事は一般的な情報提供であり、個別の催事に関する助言ではありません。