国は毎年9月と3月を「価格交渉促進月間」としており、2026年9月がその月にあたります。中小企業が、原材料費やエネルギー費、労務費の上昇分を取引価格に反映できるよう、発注者と受注者の価格交渉を後押しする取り組みです。

前回(2026年3月)の月間のあとに中小企業庁が行った調査では、警備業が初めて業種別のランキングに加わりました。中小の警備会社がコストの上昇分をどれだけ価格に反映できているかが、国の調査の数字で示されたことになります。中小企業庁の発表によると、今回はビルメンテナンス業もあわせて追加されています。

この記事では、全国の警備会社を地域と業務内容で探せる「近くの警備会社ナビ」編集部が、中小企業庁の公表資料から警備業に関する数字を取り出し、警備を発注する側が月間中に確認したいことを整理します。事実と編集部の見方は分けて書いています。

この記事でわかること

  • 「価格交渉促進月間」とはどのような取り組みか
  • 警備業の価格転嫁率(全体・労務費・官公需)と全体平均との比較【一覧表】
  • 数字を読むときの注意点(何を数えた調査か)
  • 警備を発注する側が月間中に確認したい4つのこと【チェックリスト】

「価格交渉促進月間」とは

中小企業庁の資料によると、価格交渉促進月間は2021年9月に始まり、毎年9月と3月に設けられています。2026年3月で10回目を数えました。

月間が終わると、中小企業庁は中小企業に対してアンケート調査を行い、あわせて「取引Gメン」が聞き取り調査を行います。資料では、必要に応じて業所管大臣名での行政指導などにつなげていくとされています。

2026年3月の月間についての調査は、中小企業30万社に調査票を送り、69,625社が回答しました。対象は2025年10月から2026年3月末までの取引で、結果は2026年6月26日に公表されています。

警備業の価格転嫁率は51.5%——ランキングで19位

調査の中心となる数字が「価格転嫁率」です。中小企業庁は、実際のコスト上昇分のうち、価格転嫁が実現した割合の回答を平均した値と説明しています。たとえば100のコスト上昇に対して50を価格に上乗せできていれば50%です。

受注する側の業種ごとに集計したランキング(1位から32位までと「その他」で構成)で、警備業は次のとおりでした。

項目 警備業 全体
コスト増に対する価格転嫁率 51.5%(19位) 54.2%
うち労務費の転嫁率 52.6% 50.0%
うち原材料費の転嫁率 39.5% 55.7%
うちエネルギー費の転嫁率 40.1% 48.9%
官公需(国・自治体などの発注)での転嫁率 27.7%(回答38件) 48.4%

出典:中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」(令和8年6月26日)。上の4行は「受注企業の業種毎に集計」したランキング、官公需の行は「官公需における組織別・業種別の価格転嫁の状況」の受注企業の業種別結果から転記。

警備業の転嫁率は全体をやや下回ります。一方で、労務費に限ると52.6%で、全体の50.0%をわずかに上回っています。一方、原材料費(39.5%)とエネルギー費(40.1%)は、全体(55.7%・48.9%)を大きく下回りました。

目立つのは官公需です。国や自治体などから受注した取引に限ると、警備業の転嫁率は27.7%で、官公需全体の48.4%を大きく下回りました。

数字を読むときの注意点

  • 官公需の27.7%は延べ38件の回答の数字です。回答企業は最大3者分の取引を答えるため、38件は38社とは限りません。中小企業庁は官公需の業種別結果を「30件以上の回答があった業種のみ」集計しており、警備業はその基準をわずかに上回る件数です。編集部としては、件数が少ない分、数字の振れ幅は大きいと考えて読むのが安全だと考えます。
  • 警備業がランキングに加わったのは今回が初めてです。前回との比較はできず、上がったのか下がったのかはまだわかりません。
  • 同じ資料には、警備会社を発注者とする取引の集計も別の表にあります。警備会社から仕事を受けた取引先(受注企業)が答えた集計で、警備は50.5%・22位です。資料後半の業種別ページ「警備」の転嫁率50.5%もこちらの集計です。上の表は、中小の警備会社自身が受注者として答えた数字なので、この2つを混同しないよう注意してください。
  • 調査の回答には、「中小受託取引適正化法」(取適法)の対象外の取引も含まれ得ると資料に注記されています。取適法は、事業者が請け負った業務の一部を中小の事業者に委託する取引などが対象で、国や自治体の発注、自社の施設やイベントのために頼む警備は原則として対象外です(同法第2条第4項・第8項)。

調査全体から見える労務費の交渉の実情

調査全体(全業種)では、価格交渉が行われた企業のうち7割超で労務費についても交渉が行われていました。一方で、「労務費が上昇し、価格交渉を希望したが出来なかった」企業も5.8%ありました。

資料に掲載された回答企業の声には、資料をそろえて労務費の交渉を申し入れたのに、最低賃金の上昇分すら転嫁を認めてもらえなかったという例も挙げられています(警備業に限った声ではありません)。

中小企業庁は、受注企業の意に反して価格交渉が行われなかった企業が約1割(9.3%)残っていることについて、協議に応じない一方的な価格決定の禁止を盛り込んだ「中小受託取引適正化法」の着実な執行などを通じて、交渉と転嫁の機運を高めることが重要だとしています。

【編集部の見方】発注者にとって何を意味するか

ここからは、公表資料から直接は言えない編集部の推測です。

  • 官公需の低さは、年度の予算や入札で決まった金額を、年度の途中で見直しにくい事情が影響している可能性があります。資料は警備業についてその理由を分析していません。ただ、官公需全体の回答者の声として、契約期間が4月から翌年3月までで、10月に最低賃金が上がったのに差分を転嫁してもらえなかったという例が載っています(警備業に限った声ではありません)。同じ資料では、官公需の契約の84.0%が単年度契約でした。なお、これは推測ではなく事実として、国の「令和8年度中小企業者に関する国等の契約の基本方針」(令和8年4月21日閣議決定)は、国等に対し、警備などの役務契約で年度途中の最低賃金の改定を見込んだ予定価格を作ること、改定後の最低賃金を単価が下回った場合に見直す条項をあらかじめ契約に入れること、入札による契約でも変更の申出があれば一方的な価格決定とならないよう協議することを求めています。地方公共団体にも、国はこの方針に準じた取り組みを要請しています。
  • 労務費の転嫁率が全体を上回っていることは、警備業では「人件費が上がった」という説明が発注者に受け入れられやすいことを示しているのかもしれません。ただし差は2.6ポイントと小さく、今回が初回の集計なので、変化としては判断できません。
  • 月間に合わせて、警備会社から価格協議の申し入れが来ることは十分に考えられます。10月から最低賃金が順次上がることも、その背景になり得ます。

警備を発注する側が月間中に確認したい4つのこと【チェックリスト】

確認すること ポイント
①自社から価格協議の場を設けているか 国の指針は、受注者から言い出しにくいことを踏まえ、発注者の側から定期的に協議の場を設けることを求めており、その例として毎年3月と9月の価格交渉促進月間を挙げています
②申し入れの根拠が公表資料に基づいているか 社内決裁のために理由や根拠資料を求めることはできますが、国の指針は、説明や資料は公表資料に基づくものとし、最低賃金や公共工事設計労務単価の上昇率など公表資料に基づく希望価格は合理的な根拠があるものとして尊重することを求めています。公表資料が出されているのに、賃金台帳などの内部資料まで求めることは避けます。最低賃金2026改定で警備料金はどうなる?
③応じない場合に理由を説明しているか 満額を受け入れない場合は、その根拠や合理的な理由を説明することが求められています。国の指針は、協議をせずに価格を据え置くことが、取引の形に応じて独占禁止法(優越的地位の濫用)や取適法の問題となるおそれがあるとしています
④協議の経過を記録しているか 国の指針は、価格交渉の記録を作成して発注者と受注者の双方が保管することを求めています。金額・時期・対象業務の合意内容を書面やメールで残します

国の指針(内閣官房・公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」)で発注者に求められている行動と、値上げの申し入れを受けたときの判断の手順は、警備料金の値上げ要請への対応で詳しく解説しています。

よくある質問

Q. 価格交渉促進月間に、発注者として何かしなければならない義務はありますか?

A. 月間そのものは、交渉を後押しするための国の取り組みで、月間を理由に新しい義務が生じるわけではありません。一方で、国の指針は、月間などを機会に発注者から定期的に協議の場を設けることを求めています。どの法律がかかるかは取引の形で変わります。

  • 自社が請け負った業務の一部として警備を委託する場合(ビルメンテナンス会社など):資本金や従業員数の条件を満たせば、取適法(2026年1月施行・旧下請法)の対象になり得ます。警備会社から協議を求められたのに応じない、または必要な説明をせずに一方的に代金を決めることは禁止されています(同法第5条第2項第4号)。
  • 自社の施設やイベントのために警備を頼む場合:原則として取適法の対象外です。それでも、取引上の地位が優越している発注者が協議をせずに一方的に不利な条件を決めれば、独占禁止法の優越的地位の濫用として問題になり得ます。
  • 国や自治体の発注:取適法の対象外です。ただし国の「中小企業者に関する国等の契約の基本方針」は、国等に対し、受注者から契約金額の変更の申出があれば、協議に応じない一方的な価格決定とならないよう協議することなどを定め、地方公共団体にもこれに準じた取り組みを要請しています。

判断に迷う場合は専門家にご相談ください。

Q. 警備業の転嫁率51.5%は高いのですか、低いのですか?

A. 全体の54.2%をやや下回り、ランキングでは32位まであるうちの19位です。ただし労務費に限ると52.6%で、全体の50.0%を上回っています。警備業が集計に加わったのは今回が初めてなので、傾向を判断するには次回以降の結果も見る必要があります。

Q. 官公需の27.7%は、国や自治体が警備料金を抑えているという意味ですか?

A. 資料からは、官公需の取引で警備業のコスト上昇分の転嫁が進んでいないことまでしか読み取れません。警備業についての理由の分析はありません。官公需全体では、年度単位の契約のため年度途中の最低賃金の上昇分を転嫁してもらえなかったという声が載っています。また警備業の回答は延べ38件と少ないため、数字の振れ幅が大きい点にも注意が必要です。

まとめ|月間を「協議の場を設けるきっかけ」に

2026年9月は国の価格交渉促進月間です。前回の調査で警備業の価格転嫁率は51.5%(ランキング19位)、労務費に限ると52.6%、官公需に限ると27.7%でした。警備を発注する側としては、自社から協議の場を設け、公表資料に基づく申し入れを尊重し、応じない場合は理由を説明し、経過を記録しておくことが大切です。


【出典・参考】
・経済産業省「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査の結果を公表します」(令和8年6月26日)/中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」(調査の概要、価格転嫁率の定義、受注企業の業種別ランキング、官公需の業種別結果、労務費の交渉状況)
・中小企業庁「価格交渉促進月間の実施とフォローアップ調査結果」
・内閣官房・公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(令和5年11月29日策定・令和8年1月1日改正)(発注者として採るべき行動、脚注3・4の独占禁止法・取適法の前提)
・製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(中小受託取引適正化法)|e-Gov法令検索(第2条第4項・第8項、第5条第2項第4号)
・「令和8年度中小企業者に関する国等の契約の基本方針」(令和8年4月21日閣議決定)(最低賃金額の改定に伴う契約金額の見直し、一方的な価格決定とならない協議、地方公共団体への要請)
※数値は2026年9月26日時点で各一次情報と照合しています。本記事は一般的な情報提供であり、個別の取引の法的判断については専門家にご相談ください。